一つの起点
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE

10
 一方、アクレド達と別れたデュエイは、一人で長い道のりを歩いていた。ダイハナンとゼストウラの関所がある山を越え、陥落したダイハナンを通り過ぎて、大陸の南東にある森の中へと足を踏み入れていた。ダイハナンが陥落した為なのか、関所は周辺には人がおらず、関所内部も何日も使われていない様子だった。

「…大陸を統一したつもりでいるな…」

 関所のことを思い出し、悔しそうに口元を歪めながらも、森の中を歩き続けていた。自分はフェルスナーを連れてアルバートに行く際、ゴルトルやアーサーと再会を誓っていたのだ。その誓いを果たすため、この森へとやって来たのだ。

 ガサガサ…

「!!」

 上の木の枝から物音がして振り向く。何かがいる!尋常でない殺気を感じる!こんな近くに来るまで気付かなかったとは、相手は只者ではない!
 モンスターなのか動物なのかわからない影が、デュエイに向かって一直線に降りてきた!デュエイがカウンターで払い落とそうとしたが、右から長い何かが振りかざされ、瞬時に剣の向きを変えてガードする!
 ガードした衝撃で弾かれてしまい、デュエイと影の間に間合いが生じてしまったが、僅かな差でデュエイが先制を取って反撃に出た!スピードでは自分の方が有利のようだ。

 ガキンッ!

 強い衝撃波が生じるほどの攻撃だったが、手応えと音でガードされてしまったのが解かる。金属同士がぶつかり合う鈍い音がして、お互いの動きが止まった。不意打ちに気を取られ、相手を確認していなかったが、デュエイの剣を受け止めているのは、あのアーサーだった!

「ア、アーサー…?」
「デュエイ…?」

 お互いがやっと正体に気付いた。どうやらアーサーも、森に入ってきたのがデュエイと気付かずに攻撃を仕掛けたようである。アーサーはデュエイの剣を振り払って立ち直った。先制を許してしまったとはいえ、デュエイの剣を受け止めたのは流石といったところである。

「デュエイ、やっぱり戻って来てくれたんだな!お前だったら、言わなくても絶対この森に来てくれるって思っていたぜ」
「言われなくても、最初からここだって解かっていたさ。ここは俺とお前、そしてゼファルの三人でよく修行した場所じゃないか」

 この森はデュエイにとって意味のある場所であった。この先には、長い間使われていない小屋があり、兵士になって間もない頃は、よくここで修行したのだ。アーサーやゼファルもこの場所をよく使っていた。

「あの小屋が俺達の隠れ家になっているんだ。一緒に行こうぜ」
「やっぱりあの小屋だったか…お前ならあそこしかないと思っていたぞ」

 アーサーを先頭に歩き出した。ここは深い森になっているので、奥に小屋があることを知っているのは、片手で数えれる程度しかいない。

「いやー、思わず襲って悪かった。俺は、隠れていることに気付いたゼストウラが追ってきたのかと思って…」
「俺もモンスターかと思ったよ。それにしても、俺の剣を受け止めるだけあるな」
「その後は先制を許してしまったけどな。体勢を直すのに差が出たみたいだな」

 デュエイはアーサーの強さを再確認できて安心した。やはり、ダイハナンで自分と互角の強さを持つのはアーサーだけだ。技術指導の担当になったのが惜しく思える。

「ほら、第二のマイホームに着いたぜ」

 この辺りは何も変わってなく、森に溶け込むかのように小さな小屋が建っていた。少し痛んだかも知れないが、自分達が使っていた小屋に間違いなかった。
 小屋の外にダイハナン兵の格好をした男が立っていた。男はアーサーとデュエイを見て、挨拶をする。恐らく、反レイザ派のダイハナン兵の生き残りだろう。

「残念ながら反レイザ派の兵は、ほとんどが殺されてしまった。今集まっているのは、俺とゴルトルを含めても十人しかいない」
「十人?!」

 それはデュエイにとっても衝撃的だった。三千人いたダイハナンの兵士が、レイザ達にほとんど殺されたのだからだ。いや、レイザ派の人間は三百にも満たないから無理がある。ゼストウラが手を貸したから、成功したようなものだ。そして、逃げようが降伏しようが、遠慮なく殺していたに違いない。

「何でこんなことになったんだ…」
「デュエイ…今は堪えるんだ。感情的になるなんて、お前らしくないぞ」

「無事だったのか…デュエイよ」

 やや間があってから、ゴルトルも現れた。ゴルトルはこの小屋を知らないはずだから、アーサーに連れて来られたんだろう。

「ああ、ゴルトルも無事で安心したぜ」
「ふむ…アーサーのお陰でな。それより、皆に会いに来たということは…」
「二人とも、よく聞いてくれ。俺達はアルバートの協力を得て、明後日の深夜に突入するつもりでいる。すでに、ゼストウラには数多くの兵士が、商人に紛れて潜入している」

 突入と聞いてアーサーの動きが一瞬止まったが、すぐに強気な笑みを浮かべてデュエイの方に振り向く。

「さすがに仕事が早いな。意味なく戻ってくるとも思ってなかったけどな」
「実はな…フェルスナー様も同行なのだ」
「フェルスナー様じゃと?…デュエイ…お主正気か?」
「ご本人の意志で決められたことだ。従者の俺達に止める権利はない」
「デュエイ…俺達はダイハナン奪還のために戦うんだぜ。フェルスナー様を戦いに巻き込んで亡くなられでもしたら、元も子もなくなるぞ」
「それなら心配いらないだろう」

 デュエイはフェルスナーの剣術の才能について語っていた。それに自分達が警護すれば全く問題はないということも。説明し終えると、ゴルトルが笑い出した。

「ほっほっほ。未来のダイハナンを背負われる…辛い運命と共にな。だから、その経緯に至る現実をその目で見て欲しいということか」
「ああ…俺も出来れば戦って欲しくない。だけど、これは運命なんだと思って、素直に受け止めようと思っているんだ」
「…解かった。お前がそこまで言うなら、同意させてもらうぜ」
「ワシもじゃよ。こういうことは、いつかは訪れると思っておった。今がその時なのだな」

 共に戦うことを誓ったデュエイは、フェルスナーのところへ戻っていった。明後日の深夜、ゼストウラの外れにある宿屋に集合することを約束して。
 これから、歴史に残る戦いが起こるのだ。そして、この事件に至る闇が全て払われることになるだろう。

 自分達が保護した、自らをゼストウラ王と語るあの老人は何者なのか?
 あの老人が本当の国王なら、今城にいる王は何者なのか?
 レイザはなぜ、ダイハナンを裏切ってゼストウラに協力したのか?

 戦いに勝てば、全て解かるのだから心配は要らない。自分が例え力不足だったとしても、共に戦ってくれる仲間がいるのだ。
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