一つの起点
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 老人からここにいる全員にとって、衝撃的な言葉が発せられた。この老人は、自らを本当のゼストウラ王だという。当然、ここにいる全員がとても信じれるような話ではなかった。しばらく誰も切り出せずにいたが、デュエイが最初に動いた。

「そんなバカな…俺は先日ゼストウラ王と…」

 忘れるはずがなかった。ダイハナンが陥落した直後、フェルスナーとゴルトルと共に会い、陥落の張本人だということを知らされ、剣を突き立てたばかりなのだ。そして何よりも、この戦いを終わらせる為、倒さなければならない存在でもある。

「しかし言われて見れば、ゼストウラ王に似ているな…」
「信じてくれとは言わん。だが、最後まで聞いて欲しい」

 老人は悲しそうな顔をしている。こんな悲しそうな顔をして冗談が言えるのだろうか。その場にいた全員が老人の話を聞くことにする。

「今いるゼストウラ王は、私に姿を変えた魔軍なのだ。上手く私を追い出し、王として国を動かすのが魔軍の目的だったのだ」
「鎧を着ていたとはいえ、俺の剣を受けて無事だったのが妙だと思ったが、魔軍だったら納得できる話になる」
「それだけではない。ダイハナンも手に入れたかったのだろうな。だからレイザを説得させて自分側に引き込み、内部反乱を起こすことで陥落させたのだろう」
「………」

 フェルスナーが目を伏せた。陥落に対する真相が語られているのかもしれないとなると、それを受け入れるのは辛いものがある。デュエイも握り拳を作った手が震える。

「当然、私が本物の王だと言っても、聞き入れてもらえずだ。そして城を失った為、今の生活を繰り返して今日まで生きてきたのだよ」

 老人は話し終えたが、誰もが発言しにくそうな顔をしている。当然、急でこんな話を信用できるわけが無い。だが、急なゼストウラの暴動を考えると、筋は通っている。誰もが黙っている中、フェルスナーが老人の側までやって来る。

「確かに、急なことを受け入れられません。ですが、正直に話していただけて嬉しいです。これが事実だとすれば、やはりゼストウラ王は優しい方なのですから…」
「青き首飾りを着けておられる…。あの暴動の直後だというのに、儀式の泉でのしきたりを終えられたのか…。その首飾りは、そなたの母親が生前に着けられていた物だよ」

 老人に指摘されて、フェルスナーは首飾りに手を添えて驚いた。確かにこれは、アクレドとレガーノの協力を得て手に入れた首飾りである。だが、この老人は首飾りを一目見ただけで、母親が身につけていたことまでを話した。

「ま…まさか本当にゼストウラ王なのか?」
「デュエイ…信用してくれとは言わん。ただ、知っておいて欲しかったのだよ」
「でも、もし事実であれば…ゼストウラ自身が危機に晒されている!城内の者に被害が出るかも知れんな」
「危険…あの使用人さん…大丈夫かな」

 フェルスナーは、自分の身支度を手伝ってくれたり、追われている時にかくまってくれたルネアスのことを思い出していた。彼女は、城内に部屋を持つ住み込みの使用人なのだ。かくまったことが知られていれば、既に処刑されていることもありえる。

「フェルスナー様」

 デュエイが不意に声をかけた。

「今回は、ゼストウラ王を打ち倒してのダイハナン奪還なので、全ての判断はあなた様に委ねられることになります」
「ええ」
「そしてここに、本当の王かもしれない人物がいて、事実を語ってくれました。この老人の話を信じますか?あなた様が決めて、皆がその判断について行きます」
「!」

 フェルスナーは十六年生きて来て、初めて重要な決断を迫られた瞬間であった。元はダイハナン奪還の為、自分達は動いて来たのだ。そして、王女である以上、重要な決断は自分で下さなければならない。今までは父親が何とかしてくれた、城の者が何とかしてくれた。でも、今は自分で決断しなければいけない。

「この話、信じましょう」
「解かりました。ここにいる皆が、あなた様に決断を委ねた身です。全員があなた様の考えについて行きます」
「フェルスナー王女、信じてくれたことを感謝しておるよ。城内で犠牲者が出ないよう、早期解決を祈っておるよ」

 フェルスナーは、自分の判断に誤りがないことを信じるしかなかった。ここにいる全員だけじゃない、他の場所で待機している全ての人間が、自分の判断に委ねられているのだ。だが、奪還後のダイハナンを背負わなければならないと考えると、フェルスナーはこの程度の判断から逃げるわけには行かなかったのだ。

 翌朝、差し込む太陽の光でデュエイは目を覚ました。顔を洗おうとドアを開けると、ドアに一通の手紙が差し込まれていた。誰かからの手紙だろうか?それにしても、普通なら受付で預かっているはずだ。誰か個人が、ここに直接宛てたという事だろうか?
 不審に思いながらも手紙に目を通した。

「…(そういうことか)」

 デュエイは手紙を自分の荷物にしまい込むと、顔を洗いに部屋を出た。ドアの閉める音でアクレドも目を覚まし、同じく顔を洗いに部屋を出た。あの老人をベッドで休ませた為、床にザコ寝していたアクレドは、間接を鳴らして伸びをする。

「アクレドか…おはよう」
「ああ、おはよう」

 アクレドとデュエイが並んで顔を洗う。

「他の連中から連絡があって、突入は明後日の深夜だそうだ」
「戦い前の休息ってことか。でも、二日もやることなんてないぞ」
「じゃあ、しばらくは宿屋から出ないようにして欲しいんだ。そして、フェルスナー様の警護を頼みたいんだ」
「俺達が?」

 デュエイらしくないセリフがデュエイの口から出た。自分はフェルスナーの従者で、この命を捨てても構わないというほど忠誠を誓っていたのに、その君主の警護を他の者に任せたのだ。ましてや、ダイハナンの人間でもないアクレドとレガーノなら、なおさら頼めないと思う。

「俺達は構わんけど、アンタは一人でどうするつもりなんだ?」
「俺がフェルスナー様と共にここを離れた時、再会を誓い合った同士がいるんだ。俺達が戻ってきたことを知らせなければならない」
「同士…ダイハナンの関係者か?」
「家臣のゴルトルと兵士指導官のアーサーが仲間を集め、ダイハナン奪還の為の軍団を創りあげているはずなんだ」
「でも、居場所なんて解かるのか?」
「あの二人が居そうな場所は、大体見当がつくさ」

 デュエイはそう言って部屋に戻った。少数だろうが、実力のありそうな者達が仲間に加わってくれることは嬉しかった。何気ない朝に感じるが、二日後の夜には、多くの血が流される戦いが起ころうとしている。

「国一つを潰す戦いが始まろうとしている…それに敗れることは、死を意味する…。もう後戻りできなくなっているんだよな」
「明日を生きる為には、勝つしかないんだ」

 目を覚ましたレガーノが良いながら寄って来た。アクレドが不安なのに気付いたのだろう。これほど大規模な戦いは、二人とも初めてになるからだ。街を守る自警団の仕事とは訳が違う。ゼストウラ王に成り済まし、ダイハナンを奪ったというモンスター、ダイハナン支配を条件に、その話に加わったレイザ。この二つを倒さなければならない。

「明日を生きる為に勝つ…か。今までの歴史の中で起こった戦いでも、負けることが許されないものも多かったんだろうな」
「もう千年以上前に起こった、聖戦士ハードと魔神の戦いが好例だな」

 言いながらレガーノは身支度を始めた。

「お、おい、どこに行くつもりだ?」
「買出しだよ。突入は後日にしても、身の回りの物は色々と必要だ」
「でも、俺達はデュエイに…」
「警護を頼まれたんだろ?買出しに行く間だけだ、それまではアクレドに任せるからな」

 レガーノは寝ているとばかり思っていたが、外の会話をしっかりと聞いていたようだ。でも、フェルスナーの警護という、重要な役を任せるということは、よほど信頼してくれているということだ。レガーノとは幼い頃から一緒だったが、今でもそれは変わってないようだった。
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