一つの起点
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 ゼストウラ港であればデュエイの方が詳しくなってしまうので、デュエイを先頭にして港町の中を歩いていた。中心街にも宿屋はあったのだが、そこだとフェルスナーやデュエイの存在に気づかれる恐れがあったので、そこにはアルバート兵士達を泊めておき、自分達は町外れの小さな宿屋に決めたのだ。

「ここが宿屋は規模は小さいですけど、町外れで個人経営になっているので、身を隠すには最適でしょう」

 確かに町外れで、知っている人しか知らない程度の宿屋だろう。周辺には何もなく、ひっそりと経営している感じだった。

「街中の豪華な宿屋が良かったけど…贅沢言えないんだよね…」

 フェルスナーが不満そうな顔をして言う。確かに外観が寂れた宿屋より、中心街にあった豪華そうな宿屋の方が過ごしやすいに決まっている。が、中心街では人の出入りが多く、フェルスナーのことに気付かれる恐れがあるので、やむを得ないのだ。

「じゃあ、宿泊の手続きは俺がやっておくから、外で待っていてくれ」

 アクレドがそう言って中に入っていった。ここはアルバートのアクレドやレガーノに任せるのが当然なのだから、仕方ないと言える。デュエイがテキトウに座って待っていると、人の声に気付いて辺りを確認する。どうやら、宿屋の裏手の方から聞こえるようだ。声の内容が気になり、デュエイはそのまま裏手の方に行ってしまった。

「ジジイがゴミ箱を荒らしてるんじゃねえよ!」
「ううっ・・・ごほごほ!」

 大きな町で時々見る光景だ。帰るところも行くところも、お金もない者が、食料を求めて宿屋の厨房のゴミを荒らしていたのだろう。そしてそれを見た厨房のスタッフが、させまいと追い払っている。だが、その行為が暴力的で度が過ぎているようにも見える。

「二度とここに来れねえようにしてやる!」
「ううっ…」

 厨房のスタッフが棒で殴りかかろうとしたが、割って入ったデュエイがそれを掴んで簡単に止めてしまった。

「な、何だあんたは!」
「やりすぎだ。確かにゴミを荒らすのは良くないが、これ以上やれば死んでしまう」
「しかしコイツは…」
「俺が裁いてやろうか?」

 男は反論しようとしたが、デュエイが強い力で腕を握り始めたので、舌打ちをしながら厨房へと帰って行った。デュエイは地面でうずくまっている初老の男を抱きかかえる。

「大丈夫か?」
「………」

 どうやら気を失っているようだ。外傷は少しあるが、大事に至るほどではないようだ。だからといって、このままにしておくのも良くない。

「その老人がどうかしたのか?」

 手続きを済ませたアクレドが、様子を見にやって来た。暴行を加えられていた老人を助けたのだろうが、デュエイの表情が困惑していることを教える。老人の顔をじっと見つめていて、何かを考えているようだ。

「この老人…どこかで見た顔だな…」

 次に服装を調べる。ボロボロで良く解からないが、元々は良い材質で作られた、高価な服だったようだ。デュエイは、その服に取り付けられたエンブレムを見て、顔色が真っ青になった。多少のことで動揺しないので、ここまで動揺するのは珍しいことになる。
 デュエイは老人を抱きかかえたまま立ち上がる。

「すぐに宿屋に入ろう。これは大変なことかもしれない」
「え?どうしたって言うんだ?」
「早くしろ!大変なことかもしれないぞ!」

 デュエイが先を急ごうとしたので、アクレドが部屋へと案内していった。

 老人の怪我も対したことなく、レガーノのヒールで回復させ、今は落ち着いて眠っている。デュエイは動揺を隠せず、震えた手で熱いお茶を飲んで一息つく。事態が飲み込めない皆が、デュエイの言葉を待っていた。

「………」
「で、この人を知っているのか?」

 アクレドが苛立ってデュエイに聞き出す。苛立つのも無理はない。自分たちが泊まるはずの部屋に、さっきまで外に居たゴミ漁りの老人が寝ているのだから。

「何者かは解からんが、俺はこの老人を知っている気がするんだ。どこかで見た顔だ」
「どこかってどこだよ」

 アクレドの口調は少し苛立ちが込められている。だが、デュエイは何か掴み所の無い返答しかして来ない。自分自身でも答えが解からないようだ。

「解かれば、こんなこと言わないだろう。だから俺は、服などを調べて身元の確認できるものが無いかを調べたんだ」
「そういえば…何かに気付いて真っ青な顔をしていたよな?一体、何を見つけたんだ?」
「汚れていたが、服にゼストウラ王家の紋章が付けられていた」

 それを聞いて、全員が動揺しながらも沈黙してしまう。エンブレムは王家しか持てない、それなのになぜ、ゴミ漁りの老人が持っているのだ。この者は、王家と関係しているのだろうか?それとも偶然なのだろうか?

「ううん…」

 男が目を覚ましたようだ。適切な治療を施したので、顔色が良くなっている。

「大丈夫か?酷い目に合わされていたようだが」
「すまんのう…私の勝手な行動で迷惑をかけてしまったようだな」
「しかし老人…私とどこかで会ったことはないか?」

 そこで、男はデュエイの顔を見つめ始めた。

「お前さん…デュエイか?」

 全員が総立ちになった。なぜこの老人は、顔を見ただけでデュエイだと解かってしまったのだろうか?この老人は、デュエイと会ったことがあるのだろうか?それとも、デュエイの顔を知っていたのだろうか?

「なぜ俺の名を?一体何者なんですか?」
「ふふふ…例えこんな姿になっても、お前さんの顔を忘れたりせんよ。そして隣に居るのは、フェルスナー王女なのか…。ダイハナン陥落の話は聞いておったが…」

 老人はフェルスナーも一発で当て、ダイハナン陥落の話まで言い当ててしまった。

「一体何者だというんですか?私やフェルスナー様に、ダイハナン陥落まで…」

 老人はベッドから降りて、椅子に腰掛けた。

「私は…本当のゼストウラ国王だよ」
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