一つの起点
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 船は嵐に巻き込まれること無く、順調にゼストウラの港に向かっていた。水平線が消え、徐々にゼストウラ港が見えて来た。いよいよ敵地に乗り込む時が来たのだ。

「ゼストウラが見えて来たぞ!全員、作戦どおりにやるのだぞ!これは、失敗の許されない作戦なのだからな!」

 この船の船長が全員に指示した。船長とは言っても、それは作戦で任された役であって、船長の本職はアルバート軍の海軍長だ。これは船長に限ったことではなく、乗り合わせている船員も兵士だったりするのだ。
 船長の指示に従って全員が慌しく動き出す。入港の際に、乗組員全員と荷物チェックが行われるので、それをクリアする為の作戦が行われているのだ。
 フェルスナーとデュエイがアルバートに逃げたことは知られているので、この船はアルバートではなく、エレセルトから来たと偽って入港する手続きになっている。

「じゃあ、お前達も上手くやるんだぞ」

 清掃員の服に着替えたゼファルと別れ、アクレド、レガーノ、デュエイ、フェルスナーの四人は倉庫へと向かった。この四人は乗組員ではなく、荷物と一緒にゼストウラに入るように分担させていたからだ。フェルスナーとデュエイの顔が知られているという配慮もある。
 倉庫に着くと、食料品や資源材料などが大量に積み込まれていた。これらはカモフラージュの為なのだが、実際に入荷もさせる手はずになっている。

「この荷物に隠れるの?」

 大量の荷物を見てフェルスナーが言うが、誰も答えずにアクレドとレガーノが奥から箱を四つ持ってきた。頑丈な木箱で、人一人が入れそうな大きさをしている。外側を見ると、危険物との注意書きが貼られていた。これに入れということだろうか?

「十分な積荷チェックが行われるけど、この中は爆発の恐れもある魔法薬と書いたんだ。開封厳禁物なら中味まで見られないだろうからな」
「なるほどね。確かに見られてしまえば、作戦は失敗に終わるだろうからな」

 デュエイが感心したかのように言う。これはアクレドが考えたのではなく、実際に密入国者が使った手段なのだが、それは言わないでおいた。

「これに入るの?何だか嫌だなぁ…」
「お嬢さん、贅沢言ってる場合じゃないんだぜ」

 贅沢を言うフェルスナーにアクレドが呆れていたが、この木箱は未使用だとか、いい材質で作っているとか、アルバートの職人が作ったなど、色々理由を並べた末、やっと納得してくれた。もちろん、説明した大半の内容がウソに決まっているが。
 レガーノ、デュエイ、フェルスナーが箱に入っていくと、アクレドが蓋を閉めて、外から釘を打ちつけて開けれないようにしてしまう。外からでは解からないが、木箱には隙間ができていて、そこから外の様子が伺えるようになっている。

「それじゃあみんな、この荷物は今日一日、ゼストウラ港の倉庫に保管されるんだ。深夜になったら俺が箱を開けるから、それまで辛抱しててくれよ」

 それだけ言うと、アクレドも自分の木箱に入って蓋を閉めてしまった。四人が入っていた箱も綺麗に整理され、後は入港して夜になるのを待つだけだった。

 ゼストウラ港、荷物保管倉庫。倉庫は厳重に鍵がかけられており、入り口に見張り番の男が立っているだけの倉庫だ。
 1つの木箱がゴトゴトと音を立てて動き始めた。中から蓋が外され、アクレドがゆっくりと周囲を伺いながら木箱から出てくる。幸いにも、他の三人の入った木箱も一緒に並んでいて、探す必要はなかった。
 深夜とはいえ、大きな物音を立てるとマズイので、気付かれないように全員の木箱をアクレドが慎重に開けていく。最初に出てきたのはレガーノだった。ずっと起きていたのか、待ちくたびれたかのような顔をしている。次に箱に入っていたのはデュエイだった。眠っているかのように目を閉じていたが、ゆっくりと目を開けて箱から出てくる。

「残っているのは…」

 残るはフェルスナーだけで、アクレドは気にすることなく箱を開けた。が、待っていても誰も出て来る様子がない。アクレドが間違えたのかと中を覗くと、呆れた顔をしてしまう。

「寝てるぜ」

 全員がガクっとなった。すぐにアクレドがすぐにフェルスナーを起こす。

「フェルスナー、朝よ、起きなさい!」
「うみゅ…もう朝?」

 ずっと寝ていたのか、眠そうに目をこすりながら聞く。フェルスナーは辺りを見回し、全く知らない場所なのに気付いて着いたことを知る。

「それで、どうするんだ?朝までここで過ごすのか?」

 アクレドが答えようとすると、奥の方でゴトゴトと物音が聞こえた。全員が見張り番に気付かれたのかと警戒したが、数個の箱が勝手に揺れているだけだ。中から蓋が外れ、アルバート兵が何人も出て来た。他の船でも同じ手を使われていたようだ。

「どうやら、箱に入っていた者は、ここで全員集合のようですね」

 兵士の一人が指令書みたいなのを取り出した。

「荷物と一緒だった人は、宿屋か野宿で朝まで待機しておくようですね。乗組員役だった人は船で過ごしているそうですが…」
「じゃあ、見張り番は俺が倒すから、みんなは隠れててくれよ」

 珍しくデュエイが見張り番を倒す役を買って出る。全員が気になって見守っている中、デュエイは堂々とドアを開けてしまう。

「何者だ!」

 見張り番がすぐに中を覗いたが、既にデュエイの姿は無く、いつの間にか見張り番の後ろに回りこんでいた。素早く首筋に手刀を叩き込んで気絶させてしまった。

「も、もう倒したの?」

 フェルスナーが剣で突付いてみるが、全く反応がなかった。

「じゃあ、長居は無用だ!さっさと宿屋に行こうぜ」
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