一つの起点
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 デュエイの参戦によって、アクレドとレガーノが倒されてしまうという結果で訓練は終わった。本気を出していないため、大事に至ることは無かったが、それでも二人が負っているダメージは軽いものではなかった軽いものではない。
 フェルスナーがすぐに包帯を持ってきて二人の手当てを始めてくれた。

「あの…フェルスナー様、包帯をキツく巻きすぎだぜ」
「こっちは、すごくゆるくて、解けそうです」

 せっかく手当てしてもらっておいて何だが、アクレドに巻かれた包帯は、何かを固定するかのように強く巻かれていて、レガーノは装飾でもするかのように弱く巻かれていた。

「それにしても、手加減って物を知らないのか?」
「本気は出してないぞ。自分の未熟さでも恨んでおくんだな」

 デュエイの厳しい言葉にアクレドは何も言い返せなかった。デュエイの言うとおり、自分が弱かっただけのことだ。手加減してくれたにも関わらず、実力の違いというものをハッキリと実感してしまうほどの結果だった。

「一週間後、ダイハナン奪還のため、そしてゼストウラ打倒のために戦うんだな…」
「そうだな…俺もレガーノも、人の組織を相手に戦うのは初めてだな」

 今までモンスター討伐や悪党退治は幾度と無く相手にしてきたが、統率の取れた組織という大きな敵との経験は皆無に等しい。

「だけど、いつまでも恐れていてもダメなんだ。俺達は、こういう戦いを生き抜いて、もっともっと強くならないとな」
「アクレド…」

それから夜も更け、フェルスナーが眠ってから三人でテーブルを囲って話を始める。

「デュエイ…本当にフェルスナー様を奪還に連れて行くのか?」
「気乗りはしない…でも、ダイハナンの未来を背負うのであれば、最後までその目で見届けてもらう必要がある」
「お姫様でありながら…十分な地獄を見てきたのに…まだ足りないっていうのですか?」

フェルスナーが行きたいと言えばデュエイは了承するのは解かっている。だが、今回の奪還に関しては、デュエイの本心は別のところにある。レガーノはそう思えて仕方ないのだ。絶対的な忠誠があったとしても、限度を知らないデュエイではない。

「別に意地悪を言ってるんじゃない、ダイハナンが再建されても、数多くの犠牲の上で再建された国になってしまう。フェルスナー様はそんな国を背負うお方になるのだ。再建の裏に何が起こっていたかをその目で見てもらいたいのだ」

 デュエイの言っていることには一理ある。たが、フェルスナーはまだ十六歳だ。父親を部下に殺されて間もないのに、更に辛い現実を目の当たりにして、フェルスナーが正常さを保てるかが心配になる。正常さを保てても、国を背負う覚悟ができるかも気になる。

「お前達の言いたいことは解かる。だが、ダイハナンが二度とこのような悲劇を生まないよう、フェルスナー様には、強いお方になって国を背負ってもらわないと困るのだ。だから、これは一つの試練だと思って解かってもらいたい」
「何も知らないまま国を背負うのではなく、真実を知ってから国を背負ってもらうのか」
「そういうことだ。下手をすれば、ゼストウラも崩壊する可能性もある。そうなれば、場合によってはゼストウラも背負う可能性もあるからな」
「はは…そんなことをすれば、旧アルバートの再現になってしまうな」

 それから一週間が経ち、いよいよ貨物船を使ってダイハナン奪還決行の日が来た。前もって知らされた時間にアルバート港四人で向かった。出港まで一時間以上もあるというのに、船着場には多くの兵士が待機していた。
 その中に聖騎士団の姿もあった。ゼファルが早速気付いてこちらに来る。

「みんなも来たのか」

 これから大変な戦いが起こるというのに、ゼファルは陽気に笑っている。

「お前と大きな仕事をするのは久し振りだな」
「デュエイもすっかり元気になったみたいだな。ゼストウラに着いたら、昔みたいに仲良く暴れるとしようじゃないか」
「楽しみしているぜ」

 ゼファルの言葉に対して、デュエイも笑いながら答えた。

「デュエイが戦いを前にして笑っている時は、本気で戦う時なのよね」
「ゼファルとはライバル意識が剥き出しになっているけどな…」

 レガーノが心配そうに見ていた。

 船の積荷が終わったらしく、各自に変装用の乗組員の服が配られた。向こうに付く前に着替えておけということだろう。デュエイ達は幸いにも、同じ船ということで助かった。
 デュエイ達だけならあり得なかっただろうが、今回はダイハナン王女も同行しているということを配慮して、四人用の個室が用意されていた。

 アクレドは装備の手入れ、レガーノは魔法書の読書。フェルスナーは外に出て遠くの風景を眺めている。デュエイは、船内にいるのは味方ばかりなので、安心してベッドで眠っていた。それぞれが戦いの前の休息として、自分の過ごし方で船旅を楽しむ。
 船が出港して一時間は過ぎただろうか。陸は見えなくなっていて、見渡す限り水平線の広がる風景ばかりが見えていた。そんな風景を見てばかりのフェルスナーだったが、人の気配で我に返った。

「デュ……アクレドさん」

 フェルスナーの側に寄って来たのは、デュエイではなくアクレドだった。フェルスナーの隣に立って同じように風景を見つめる。

「デュエイじゃなくて残念だったな」
「それはいいんですけど、デュエイは?」
「さあね?船内は味方しかいないと知った途端、造作もなく眠ってしまったけど」

 デュエイは回復したばかりで万全とは言えない。できるだけ休んで力を温存しておくことはいいかも知れない。

「…いい景色ですね」
「全く。俺達はこれから地獄を見るのに、今はキレイな景色が拝めるなんてね」

 アクレドとフェルスナーはいつまでもその風景を眺めていた。
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