一つの起点 |
TIME GATE HARD FINAL EPISODE |
会議の準備をするということでアクレド達は客室で待たされることになり、会議室へ案内されたのは、待たされてから数時間が経過した頃であった。 会議室には国王を始め、大臣や重役の者、そして重役を任されていると思われる二人の兵士が着席していて、四人も空いている席に着く。国王は全員が着席したのを確認すると、咳払いをして議題に乗り出す。重い空気が会議室の中に流れる。 「堅苦しい挨拶は抜きにしておこう。ここにいる者は全員、なぜ急に会議を開くことになったかを理解している…という前提で始めさせてもらう」 言うまでもなく、全員の表情は真剣になっており、全員が理解しているのをそれだけで解かってしまうほどであった。国王が座ると、代わりに一人の兵士が立ち上がって説明に入る。おそらくこの人物が兵士長であろう。 「全員が知っている通り、ゼストウラは姉妹国であるはずのダイハナンを襲撃して手中に収めるという事態が起こりました。我々はそのゼストウラを、敵として迎えねばならなくなります。ダイハナンと同様の姉妹国だというのに」 その言葉を聞いて表情を落とす者もいた。特に重役の者は、ダイハナンやゼストウラに行ったことがあるだけに、余計に残念に思えるのかもしれない。 「これは決して戯言ではなく、ダイハナン王女フェルスナー様と、兵士長デュエイ殿の証言を元に下した決断なのです。お二方は数日、自警団で保護されていたようです」 紹介に預かったフェルスナーが立ち上がろうとしたが、アクレドがそれを止めて、代わりに自分が立ち上がる。 「俺が、フェルスナー様とデュエイを保護したアルバート自警団…責任者アクレドです。隣にいるのが、相棒のレガーノです」 今度はレガーノも立とうとしたが、それもアクレドが止めてしまった。自警団が責められるのであれば、責任者の自分がそれを背負うつもりだ…そんな表情をしている。 「アクレド君、君は謁見より先に儀式の泉を選んだことに関しては、それについては我々も理解しているからいい。しかし、どうして君は自警団で二人を保護したのかね?」 国王の鋭い質問が飛んでくる。レガーノの額には汗が浮かぶが、アクレドは全く動揺していないように見える。考えも無しに保護したというわけではなさそうだ。 「最初は、身元不明の二人として保護しただけです。それがフェルスナー様とデュエイだと解かったのは、聖騎士団長のゼファルが確認したあとでした」 「ふむ…では、身元が解かったのにも関わらず、城内での保護に切り替えようとしなかった…これにも意味があるのかね」 「はい。すぐにダイハナンが襲われたことも聞きまして、その時点で城内が安全という保証は無くなりましたからね…」 アクレドは良く解からないことを言う。 「どういうことだ?」 「ゼストウラがダイハナンを襲ったのであれば、次に狙うのがアルバートであるのは、俺はとっくに解かってました。おそらくゼストウラもそのつもりでしょうし、俺がゼストウラの人間であったら、そうしてます」 「まあ、私もそうしてたと思うな」 「なら、ゼストウラの手先が、兵士とかに紛れて入り込んでるかもしれない。なら、城内で保護するのは返って危険だと思ったんです。聖騎士団は城から離れているから無理だし…そう考えていくと、自警団が妥当だと思いましてね」 言われて見ればその通りである。襲撃後で余裕のないゼストウラが、そこまでするとは考えにくいが、アクレドの説明は筋が通っている。 「まあ、後はデュエイが大怪我を負っていて、回復待ちもあったんですけどね…」 国王の質問が終わり、兵士長が説明を続ける。 「では、今回の提案を述べたいと思います」 兵士長は紙を広げて、書きながら説明する。 「まず、ゼストウラに行くには船を使わざるを得ません。しかし軍船で行けば、今から乗り込むということを宣伝するようなものです」 それはその通りである。フェルスナーとデュエイはゼストウラ港の船に乗ってアルバートまで逃げてきたのだ。今後、入港する船へのチェックは厳しくなるものだろう。 「そこで、近日の出港のリストを調べてみたところ、一週間後に大型の貨物船が、四隻ほどゼストウラに行くことが解かりました。これを使いたいと思います」 「つまり、俺達は乗組員に変装してゼストウラに行くということか」 アクレドが感心したかのように言う。更に説明を受けたところ、この四隻を使えば二百人ほどの兵士を乗り込ませることが可能となり、アクレド達もこの中に混ざるということになる。貨物船である以上、荷物が申請通りであれば疑われることはない。 「…いつまでそうしてるんだ?さっさと出てきたらどうだ」 デュエイが突然、誰かに向かってそう言い出す。どこに向かって言っているのか解からない視線をしているが、気配は明らかに違う方向に向けている。 「ハハハ…気配を消したつもりだったが、無駄みたいだな」 柱の影からゼファルが出て来た。会議室に入った時には、誰もいなかったはずである。途中で入って来たとしたら、誰かが気付くはずである。ゼファルはその二点をも覆して、こうしていつの間にか会議室に入り込んでいた。 更に驚くべきことは、デュエイはさっき「いつまでそうして…」と言っている。ということは、デュエイはゼファルがいつから会議室にいたかが、解かっていたということになる。 「ゼファル…いつからそこに…」 国王や兵士長の表情を見ると、やはりデュエイ以外はゼファルが隠れていたことに全く気付いてなかったようだ。 「王様、ゼストウラに乗り込むんですよね。だったら、この聖騎士団もアルバートの一員として参加させてもらいますよ」 「ふむ…聖騎士団が力を貸すと言うのか」 詳しく話を聞くと、現状の聖騎士団は特に戦闘状態に入るような事も起きてないので、ゼファルを先頭に合計十人が参戦するということだった。しかもこれは、普通の兵士十人が力を貸すのとは訳が違っていた。BP(バトルポイント)一万以上を持つ強力な者が、十人も加わってくれるということだ。これは兵士数百人に相当する。 ゼファルは説明し終えると、空いている席に座った。 「それでアルバート王、このデュエイは、先ほどの兵士長の提案に賛成します。他のみんなはどう思う?」 デュエイの突然の問いかけに、全員が少しだけ考え込んでしまう。 他に最もな意見が出てない以上、この提案以外に選ぶ道はないだろう。しかし、それに素直に賛成していいものかと思うと、どうしても躊躇ってしまう。 「通常乗船を使うことはできないのかね?」 今まで黙っていた大臣が意見を述べる。 「無理です。入国時に身元の確認がされます。厳しいチェックになっているのなら、絶対に気付かれてしまいます」 「やはり…兵士長の提案通りしかないのだろうな」 少し待ってみたが、誰一人として意見を出さなかったので、これを一週間後に実行すると言うことで話はまとまった。 |
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