運命の架け橋
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE

10
 アクレドもレガーノも大ダメージを負っていたが、ゼファルがすぐにその場で回復と適切な処置をしてくれたおかげで、アクレドの家に戻る頃には二人とも完全に回復していた。アクレドが落ち着きを取り戻してから一部始終を全員に説明し終え、全員がそのまま、黙り込むかのように考え込んでしまった。

「血が黒かった…か。明らかに人間のものじゃないってことか」

 薬を飲んで少しだけ状態が良くなったのか、デュエイは体を起こしてベッドに座るようにしながら言う。

「もしかして…魔軍…」
「フェルスナー様が知らないのも無理ありませんが、魔軍は魔軍で血の色がまた違います。魔軍の血は全て青いんです」
「そ、そうなんだ…」
「私達にも何者かは解かりませんが、ゼファルに調べてもらいましょう。何か手がかりがあるかもしれないし。ゼファル、できるよな?」
「ああ、もしライファの森を燃やした張本人だとすれば、事が大きくなる前に解決させる必要があるからな」
「それはそうと、これをフェルスナー様に渡すのを忘れてたぜ」

 アクレドがフェルスナーに大きな紙袋を渡した。フェルスナーが中身を取り出すと、先ほど購入した模造剣と、運動服とクロースアーマーが入っていた。フェルスナーは試しに模造剣を持ってみるが、軽い材質で作られているのか片手でも十分に扱えるものだった。服も鎧も自分に合うサイズにも見える。

「ありがとう。さっそく試しに着てみるね」

 フェルスナーは、模造剣と運動服を持って奥の部屋に入って行った。

「お姫様〜、俺も手伝いますよ」
「やめんかい!」

 部屋に入ろうとしたアクレドを、レガーノがスリッパで頭を叩いて止める。部屋には気持ちのいいくらい爽快な叩く音が響いた。四人はお茶を飲みながら着替え終わるのを待っていた。ドレス以外着たことないだろうから、その点だけは心配してしまうが、だからと言って部屋に入るわけにも行かない。
 やがてドアがゆっくりを開いてフェルスナーが顔だけ覗かせる。

「た、多分合ってるとは思うんだけど、間違ってても笑わないでね」
「フェルスナー様、誰も笑いませんよ」

 フェルスナーは恥ずかしそうに着替え終わった格好を見せる。全員が「おおっ」と感心の声を漏らしてしまった。その格好を見れば、どこからどう見ても見習いの女戦士にしか見えない。あの長かった髪も束ね直していて、いかにも動きやすさを強調している。

「うーん…お姫様というのも、変われば変わるものなんだな。格好を見ただけじゃ、絶対にダイハナンの王女様とは思えん。駆け出しの女戦士が関の山だろう」

 アクレドが感心しながらフェルスナーの全体を見る。後ろにも回ってチェックするが、服の着こなしには問題はなさそうである。

「それではフェルスナー様、早速練習を始めましょうか」

 二人は外に出て練習を開始した。レガーノとデュエイは参加せず、二人の練習を見守るだけであった。

「ハァ…ハァ…」

 アクレドが練習を始めようと言ってから、小休憩を挟みつつも既に四時間が経過していた。フェルスナーは慣れないながらもアクレドから剣術の基礎を教わり、息を切らしながらもこうやって練習を続けている。剣の才能を持っているだけあって、覚えるのに苦労はなかった。

「アクレド…どうだ?」

 様子を見ていたレガーノが聞いた。

「さすが…と言ったら、女の子には失礼かな。あの小柄な体は小回りが利く。スピードで相手を翻弄するのには最適だ」
「なるほど…だけど、力の流れとかを教える必要があるだろう。力比べになってしまえば、間違いなく押さえ付けられるだろう」

 レガーノの意見は正しい。今は目先のことしか見てなかったが、いずれはダイハナン奪還のために戦場に立たなければならないのだ。そして、ダイハナン王女であるフェルスナーも、その舞台に立たせる必要があるのだ。ゼファルは加われないだろうから、アクレド、レガーノ、デュエイ、フェルスナーの四人が間違いなく立つ。
 だが、その中でもフェルスナーは全てにおいて他の三人よりも劣る。身体能力、技術、実戦経験など、フェルスナーは才能以外に何も持ち合わせていない。力比べになってしまえば、圧倒的に不利になる。

「それじゃあ、次に力の流れですが…」

 その後、力の流れや基礎技術をフェルスナーに教えて一日が終了した。家の中に戻ったフェルスナーは、剣を置くと椅子に座り込んで疲れた表情を浮かべた。アクレドが気を使ってお茶を入れてくれた。

「やっぱり疲れましたか?」
「こんなに運動したのは、生まれて初めてよ。こんなのが毎日続くの?」
「ははは、明日は練習しませんよ」

 フェルスナーはお休みなのかと思ったが、デュエイの状態が良くなって歩けるほどに回復したいたので、明日はアルバート国王の謁見に行こうというのであった。儀式の泉での儀式は終わっていて、後はデュエイの回復を待つばかりだったのを忘れていた。
 アルバートにダイハナン陥落のことを伝え、アルバートの力を借りてダイハナンをレイザ達の手から取り戻す。これは背景にあったゼストウラ王国との戦争を起こすことにもなるが、ゼストウラの目的を知れば、アルバートも手を貸してくれるだろう。

「フェルスナー様」

 デュエイが部屋から出てきた。歩く表情に辛さが見えないことからすると、本当に状態は良くなっているみたいだ。椅子に座り、フェルスナーと同じく、アクレドの入れたお茶を飲む。

 「もう少しの辛抱です。もう少しで、ダイハナン奪還の手筈が整います」
 「ゴメンナサイ…あたし一人のために…」
 「何を言うのです。今の私は、ダイハナンのためにあるのです。戦うこと以外に生き方を知らない私なのです。その生きる場を与えてくれたのは、フェルスナー様なのですよ」

 デュエイはフェルスナーの手を握って元気付けた。
 明日、アルバートに謁見に行けば、間違いなく事は大きく動くだろう。そして、ダイハナン奪還のための第一歩が始まる。それは、とても大きな物事となるのだろう。複雑な心境のまま、全員は明日を迎えた。
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