運命の架け橋
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


「それで、フェルスナー様に剣術を教えるというわけか」

 聖騎士団本部から戻って来たゼファルは、薬を調合しながらフェルスナーに剣術を教えるという話を聞いていた。ゼファルは話を聞いて最初は冗談かと思ったが、フェルスナーの真剣な顔を見てそれが本気だということはすぐに解かった。

「だけど、組み手をやっただけで息切れしていたのなら、基礎を教える前に基礎体力を作らせないと話にならないでしょう」

 ゼファルは調合した薬をデュエイに飲ませると、フェルスナーの着ているドレスに手を添えて考え込んでしまう。。

「それにこのような身分を明かすような服も、剣術を習うものが着る服じゃない。運動に最適な動きやすい服と、クロースアーマーでもいいから、戦闘向きの鎧が必要だ」
「あ、それじゃあ俺達が買って来ようか?ちょうど買い物に行きたかったんだ」

 アクレドとレガーノが同時に立ち上がった。家主が家を離れるのは好ましくないが、残念ながらゼファルは城下町の地理に詳しくないし、フェルスナーは外に連れ出せないし、二人が行く以外に方法はない。それに、万が一ゼストウラやレイザの手下が留守中に襲って来たとしても、ゼファルがいれば安全に違いない。

「えーと、クロースアーマーにクロースシールド、それに軽めの木で作った模造剣…と」

 城下町に出た二人は、フェルスナー用の装備と必要な道具を買いながら忘れているものはないか確認をしながら城下町を並んで歩いていた。少し歩いたところに行きつけの装備専門店があったのでそこに入り、店主に指定の装備があるか確認を取る。

「えらくサイズが小さいけど、女剣士でも自警団に入って来たのか?」

 店主が指定どおりの装備があるかを確認し、間違いが無いかを確認して梱包をする。幸い、この店には木製の模造剣もクロースアーマーもあった。

「まあ、入って来たというより、剣術を習いに来たといった方が正しいかな。剣術の才能に恵まれた人なんでね」
「へえ…そんなのが自警団に入れば、安泰するんじゃないのか?」
「人を老人みたいに言うなよ。自警団は死んでも俺達が守って見せるさ」

 買い物を済ませ、戻ろうとしたアクレドをレガーノが止めた。アクレドが「何故止める」と言おうとしたが、レガーノの表情が真剣なので言葉を飲み込んでしまう。

「レガーノ、何の…」
「声を立てるな。そこの道具屋の前を見てみろ」

 レガーノが指差した方向を見ると、道具屋で買い物をしている男が目に入った。たが、二人の視線は男ではなく、男が着ているマントに行っていた。マントに描かれた見慣れない紋章、それは間違いなく、夕べあの森を燃やした謎の男であった。

「あ…あの野郎…!」

 アクレドは昨日のことを思い出して腹を立てていたが、レガーノはそれとは反対に冷静になっていた。今ここで挑むのはいい選択ではないと判断したからだ。

「奴は…アルバートに潜んでいるのか?もしそうなら、尾行して潜伏先を調べてみようぜ。もしかしたら何者か解かるかも知れない」

 アクレドはすぐにでも倒したかったが、ここは冷静になっているレガーノに行動をゆだねることにした。そもそも、二人で戦っても勝てるとは限らない。。

「………」

 二人は尾行中は、一切言葉を交わすことはなかった。微かな声が原因で気付かれることも珍しくないからだ。足音も完全に消した状態で男と歩調を合わせながら歩く。
 男は人目を避けるかのように裏路地を選んで歩く。アクレドとレガーノは裏路地に入ったところで物陰に身を潜めながら、男を尾行し続ける。だが、二人は男がどこに行こうとしているのか疑問に思ってしまう。男が歩いている先は、行き止まりになっているからである。
 やがて、行き止まりの壁のところまで来ると、男は壁の前で立ち止まった。二人は男が何をしようとしているのか見張っている。

「そんなに私の正体が気になるか?」

 男の意外なセリフに、二人はドキリとなってしまう。どうやら、尾行していたことに気付かれていたようである。隠れてても意味が無いので、二人はゆっくりと姿を見せた。

「行き止まりで何をするのかと思ったが、俺達を誘い出すためか」

 アクレドは鋭い視線で男を睨む。

「戦闘になりかねないからな。人気の無いところで戦わないと、街の関係ない人々を巻き込んでしまうからな」
「お前は何者なんだ?!」

 アクレドとレガーノは、問いながらもゆっくり構える。戦闘状態になった時、先に攻撃を仕掛けれるようにするためである。この行動を取ったのも、男から異常なほどの殺気を感じ取れたからでもある。表情は崩さないものの、嫌な汗が流れる。

「フフフ…私の正体か?簡単に教えるわけないだろう。聞きたければ力ずくで聞いてみる…というなら話は別だろうけど」
「言ったな…。力ずくで聞かれたいのか?」
「森を燃やした張本人を、俺達が放っておくわけない!」
「いい覚悟だ…。なら、私も少しだけ本気を出そう」

 男は着ていたマントを広げ、ゆっくりを構える。だが、先に仕掛けさえまいと、二人は素早く攻撃を仕掛けた。

「これでも喰らえ!」

 アクレドは力任せに剣を振ったが、男は刃を指と指の間で挟んで止めてしまった。

「何だと?!」

 男はそのまま反対の手で衝撃波を叩き込むと、そのまま吹き飛ばされ、壁際に積んであった廃材の中に突っ込んでしまった。

「ファイヤーボール!」

 レガーノがファイヤーボールを放ったが、男が腕を振ると、ファイヤーボールは簡単に掻き消されてしまった。

「ま、魔法を掻き消しただと?」

 ありえない行動に、レガーノは一瞬戦意を失ってしまった。男はそれを見逃さず、無防備になっていたレガーノに衝撃波を叩き込み、壁に激突させて深手を負わせてしまう。衝撃が強かったのか、レガーノはそのまま倒れてしまう。

「ぶっ殺してやる!」

 廃材の中から飛び出て来たアクレドだったが、振るった剣を簡単に手で叩き落され、アクレドも地面に叩きつけられてしまう。アクレドは背中を強く打ちつけ、内臓に衝撃を受けてしまった。

「あの森での戦いで懲りたと思ったのだがな…。それでも懲りずに私に挑むというのは、愚かなことなのだよ」
「(つ…強すぎる。こんな奴が存在しているなんて…)」
「(魔法を掻き消した…何も通用しないのか?)」

 二人はどうすればいいか解からなかった。昨日の戦いでは、実体を捉えられなかったのを敗因にしていたが、どうやらそういう問題ではなかったようだ。二人は普通に戦っても実力に違いがありすぎるのを痛感する。

「私は弱者をいたぶるのは趣味ではないが、目障りになるようなら死んでもらうしかない。そしてキミ達は懲りずに私に挑んだ時点で目障りなのだよ。大人しくしていればいいものを…」

 男が魔力を集中し始める。手の先に魔力が溜まり始め、球体のような形になっていた。この魔法で二人を殺すつもりなのだろう。どうにか反撃したいが、大きくダメージを受けた二人は全く動けなくなっていた。

「それじゃあ、死んでもらうとしよう」

 アクレドは殺されると思い、強く目を閉じた。

「クロスガンマ!」

 突然、どこからか剣術の衝撃波が、男の方に向かって飛んで来ていた。男は素早く身をかわしたが、マントの端が切れていた。あと少し反応が遅ければダメージを受けていただろう。男の顔が少しだけ真剣になる。

「だ…誰…だ?」

 二人が動けない体を無理に動かして、剣太刀が飛んできた方を見てみると、剣を構えたゼファルそこに立っていた。

「二人の帰りが遅いから様子を見に来ていたんだが、まさかこんな場面に遭遇するとはな」
「ゼファ…ル…」
「レガーノ、無理して喋るな。話は戦いが終わってからでいい」

 ゼファルはニヤリと笑ったが、すぐに真剣な顔になって男を睨む。

「キサマか、森を燃やしたという奴は」
「私のマントに切れ目を入れるのは大したものだが、そんなに死にたいのか?」
「あれは挨拶代わりだ。その程度が俺の実力だとでも思っているのか?」
「私に敵うとでも思っているのか!」

 男がファイヤーボールを放ったが、ゼファルはそれを剣で打ち返して男に命中させた。男はファイヤーボールの炎をすぐに消したが、その注意がそれた一瞬を見逃さなかったゼファルは容赦なく追撃をする。だが、男もすぐにそれに気付いて攻撃を避けた。間合いを空けて体勢を整えようとしたが、ゼファルの疾風斬がそれをさせまいと追撃をする。

「うぐっ!」

 男の服に切れ目が入り血を滲ませる。しかしその瞬間、アクレドもレガーノもゼファルも自分の目を疑った。不思議なことに男の服に滲んでいる血の色は黒かったのだ。赤黒くもなく、本当にインクのように真っ黒であったのだ。
 血の色を見られてマズくなったのか、男に少しだけ焦りが見える。

「ふっ…運のいい奴め。そのような戦士がいるのでは、私も無事に済まないかも知れない。だから今日は大人しく引き下がってやろう」
「逃がすと思ってるのか!」

 ゼファルが再び疾風斬を放ったが、男はそれよりも早くに姿を消してしまった。そしてどこからともなく声が響いてくる。

「また会おうことになるだろうが、その時がお前達の死ぬ時だ」
「畜生!」

 逃がしてしまい、怒りのやり場が無かったゼファルは、近くにあった廃材を蹴飛ばして悔しそうな表情を見せてしまった。
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