運命の架け橋
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 部屋の中には、思い空気が流れていたが、レガーノがその沈黙を破った。

「飛んでいた蜂の動きが目で追えて、ナイフで簡単に仕留めてしまう」
「そっから考えられるのは一つしかないよな」

 アクレドとレガーノはそこで言葉を止めた。言わなくても十分に解かってるからだ。張本人のフェルスナーは壁を背にして顔が引きつっていた。デュエイは、あまりの予想外の出来事に、表情がとても落ち込んでいた。

「い、嫌だよ。あたしはダイハナン王女である、フェルスナー=ダイハナンよ?何で剣の才能を持たなきゃならないの!」

 年頃の女の子が剣の才能に気付いてしまうなんて、アクレド達には想像もできないくらいショックなことなのかもしれない。これが戦乱時代と呼ばれた千年前なら、多少はマシだったかもしれないだろうが、今は平和に満ちた時代である。
 レガーノが腕組しながら考える。

「フェルスナー様、あなたはさっき試したとおり魔法が使えないし、あなたの父上は、若い頃は腕の立つ剣士だったそうですね」
「そ、そんな…ただナイフで蜂を切っただけだし、きっと偶然だよ」

 確かにそれも一理あるが、ここは実際に試してみるのがいいというのも一理ある。さっそくアクレドはテーブルを移動させ、部屋の隅においてあった練習用の模造剣を取り出してフェルスナーに渡した。木製だったが、それでもフェルスナーには重く感じられたらしく、少し重さに振られる感じで剣を扱っていた。アクレドも同じ剣を持って構える。

「さあ、その模造剣でかかって来て下さい。遠慮なんていりませんよ」
「…うう…そんなこと言われても…」

 フェルスナーは言われるがままにアクレドに向かった。とりあえずアクレドに向けて力任せに剣を振ってみたところ、まるで素人とは思えないほど迫力のある剣太刀が見えた。アクレドもその凄さに気を取られてしまったが、何とか避けた。しかしフェルスナーは素早く軸足を切り替えて、アクレドを追う様に追撃を繰り出した。
 アクレドはその追撃を弾こうとしたが、想像以上に重く弾けそうになかったので、力の流れの作用で受け流して間合いを取った。

「だ、大丈夫ですか?」
「まだまだですよ!さあ、構わず攻撃を!」

 平然さを装うアクレドだったが、心の中では“これが王女様の剣の扱い方か?”と疑問に思っていた。フェルスナーは再び剣を振ろうとしたが、寸前のところで一瞬だけ動きを止め、突きに切り替えて間合いを詰めてきた。

「(フェイント!)」

 回避がギリギリ間に合ったが、フェルスナーの模造剣がアクレドの頬を掠った。剣はアクレドの体に触れたままだったので、その剣でアクレドを押し倒そうとしたが、そこはさすがに力で負けしてしまい、逆にフェルスナーが倒れてしまった。

「あ、当たった…」

 攻撃が当たったことにフェルスナーは喜んだが、逆にアクレドは表情を緩めなかった。軽い気持ちで戦っていたが、戦闘で気持ちが高ぶってしまったのか、アクレドも少しだけその気になっていた。

「中々やりますね…でも、もう少しだけ続けさせてもらいますよ!今度は、こっちから行かせて貰うとしましょう!」

 アクレドの素早い動きで、一気に詰め寄って剣を振った。フェルスナーは「キャア!」とか言いながらもアクレドの攻撃を模造剣でしっかり防御できていた。攻撃を受け止めた後はフェルスナーが後ろに引いて距離を取った。
 アクレドが徐々に詰め寄ってくるので、フェルスナーも同じだけ下がろうとしたが、何かが背中に当たったので振り向くと後ろは壁になっていて、いつの間にか追い詰められてしまっていた。

「えい!」

 フェルスナーは体当たりをして来た。さすがに押し倒せないが、思い切った行動はアクレドの予想範囲に無く、まともに喰らってしまって数歩後ろに下がってしまう。フェルスナーはそれを見逃さず、壁の遠い位置に移動して難を逃れた。

「本当にコレが素人の戦いか…?」

 額に汗が流れる。確かに戦いで疲れているとはいえ、一国の王女を相手にここまで手を焼いてしまうのは、こうしていても信じられないほどだ。

「だけど…アルバートの自警団である自分も、負けるわけには行きません!私の新しい必殺技を見せてあげましょう!」

 剣をゆっくり動かしながら少しずつ前に出る。不規則で不思議に動く剣の扱い方は、奇妙にも見える。

「無影剣!」
「む、む…えい…けん?」

 レガーノも初めて見る必殺技だった。おそらく、岩人形との戦いの時に習得した必殺技なのだろう。
 無数の剣が同時に現われ、それが一度に色々な方向から襲って来ようとしている。本物は一つだけで残りは残像に違いないだろうが、近くで見ているはずのレガーノでもどれが本物なのか全く見分けが付かない。
 フェルスナーはやられると思って、目を閉じて体を強張らせて待ち構えていたが、なぜか攻撃が当たって来ることはなかった。怖々と目を開けると、ベッドで休んでいたはずのデュエイが目の前に立っていて、アクレドの木の棒を掴んで攻撃を止めていた。デュエイには攻撃が見切れていたのだろう。

「ちょっとやり過ぎだぞ!」

 デュエイが鋭く睨んでそう言うと、アクレドは頭を掻いて手を止めてしまった。

「当てるつもりはないよ」

 アクレドはデュエイから視線を逸らしながら剣を収めた。フェルスナーは「終わった〜」という感じでその場に座り込んでしまう。試すだけの軽い戦闘のつもりだったが、体力のないフェルスナーには、それだけでも過酷な運動になっていた。

「それにしても、フェルスナー様に剣の才能があったというのは、見ていた私でさえ信じがたいことですよ」
「でも、さっき実際に試してみた俺も保障するぜ。フェルスナー様は、間違いなく剣術の才能を持っている。本能で的確な行動が取れている」
「よし、決めたわ!」

 突然フェルスナーは何かを決意したかのように力を込めたポーズになる。

「あたし、剣士になる!剣士になって、デュエイ達とダイハナンを取り戻すために戦うわ!」

 そう言ったフェルスナーは、アクレドの方を振り返って深く頭を下げた。

「アクレドさん、お願いします!どうか、あたしに剣術を教えて下さい!」

 予想していなかったことに、三人はたじろいた。高貴でありながらも世間知らずで、それでも威厳を感じさせるフェルスナーであったためである。それに、その真剣さはレガーノから魔法を習っていた時とは比べ物にならなかった。

「フェルスナー様…ダイハナンを取り戻すなら私達が…」
「いいえ、あたしがみんなに頼ったままじゃ、絶対に足を引っ張る!魔法でも剣術でも、あたしも力にならなければいけないのよ!みんなに頼ったままじゃ、例えダイハナンを取り戻しても、王としては失格よ!自分の力でダイハナンを取り戻したい!」
「………」

 ダイハナンに使えて10年になるデュエイだったが、そのフェルスナーの真剣な眼差しは、初めて見るくらい真剣な光を持っていた。そしてそれは同時に、少しの雑念も持ってないということを教えてくれていた。

「…解かりました。ですけど、教えれるのは基礎までです。それまでにデュエイは完治しているだろうし、それからはデュエイに習うといいでしょう」
「やったぁ!」
「アクレド…フェルスナー様にしっかり教えてやってくれ。ダイハナンの王女様に剣術を教えるというのは、思っている以上に大切なことだからな」
「へへ…任せてくれ」

 二人はニヤリと笑った。フェルスナーに剣術を教えるということを通じて、新たな信頼関係が生まれたのだろう。 
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