運命の架け橋
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 フェルスナーが儀式を終え、三人は休むこともなくアルバート城下町にあるアクレドの家に戻って来た。自分の代わりに留守番をしているゼファルと、ケガで休んでいるデュエイを心配させてはいけないからだ。
 結局あの岩人形は、ダイハナン王族と儀式の泉を敵から守るために存在していたことには間違いないだろう。儀式を終えたフェルスナーの行動が岩人形を沈めたことで終わったが、フェルスナーもとっさの事だったらしく、よく覚えていないということだった。何はともあれ、こうして無事に終わっただけでも幸運に思うしかない。

「フェルスナー様、良くご無事でした」

 デュエイは少し微笑みながらフェルスナーにそう言った。表情を見れば、もうケガの心配はいらないだろうが、フェルスナーを連れて行くためには、デュエイの存在が絶対に必要なのを全員が理解していた。儀式が終わっても、デュエイの回復まで待つしかないのだ。アクレドとレガーノはイスに座り込んでぐったりとしていた。岩人形との戦いで相当疲れているのだ。

「よし、アクレドもレガーノも疲れているみたいだし、俺が聖騎士団本部に戻ってソウルハーブを取って来てやろう」

 ゼファルが突然立ち上がってそう言った。
 ソウルハーブとは、この世界に古くから伝わっている有名な薬草の名前である。全ての病気に絶大な効果があり、ケガの回復力を高めることで有名である。ただし、一部の限られた場所でしか生えておらず、とても重宝されていることでも有名なのだ。

「ゼファル、こんな極寒に地に、そんなもん生えてるのか?」

 ぐったりしていながらもアクレドが言った。アルバート王国領は常に雪に覆われている極寒の土地なので、木は生えているが花や雑草は生えない。

「生えているわけではない。花を乾燥させ、粉末状にしたものがある。形状は変われど、効果は同じだから大丈夫だ」
「ふーん…」
「デュエイの回復が優先だからな。出来る限り力になってやらんとな」
「すまないな…俺一人の為に」

 ゼファルは身支度を済ませると、急いで聖騎士団本部に戻って行った。今から急いで行ったとしても、日が暮れる頃まで戻って来ないだろう。戦いで疲れている二人だが、フェルスナーを放って休むことはできない。

「レガーノ君…だったかな」
「ん?」
「キミは確か魔法が使えるんだよね。お願いがあるんだ」

 デュエイのお願いと言うのは、フェルスナーの魔法の指導だった。ダイハナン王族の女性は、魔法を心得るのが習わしなのだが、フェルスナーは不得意なのか、まだ魔法が全く使えないという弱点があるのだ。そこで法術師とはいえ、魔法が使えるレガーノを手本に、フェルスナーに魔法を覚えてもらおうということだった。」

 三人は外に出ると、アクレドが家から持って来た板を人の形に2つ加工し、両方を地面にしっかりと固定してレガーノに合図した。

「よく見ててくださいよ」

 レガーノが詠唱を始めると、右手の手の平に小さな火の玉が出来ていた。鋭く的の方を向き直すと、全力で手の平にあった火の玉を的に向かって投げつけた。板はすぐに引火し、簡単に燃え始めてしまった。

「これが、魔法のファイヤーです。私はデイスなどの無属性魔法が得意なので、ファイヤーは大した効果がありませんが、得意になればもっと大きな効果を生みますよ」

「それじゃあ一緒にやってみましょう」

 レガーノとフェルスナーが一緒に並んで練習することにした。レガーノが構えるのを見て、フェルスナーはそれを真似るように構える。

「火の神、ラスレイの力よ…」
「火の神、ラスレイの力よ…」

 フェルスナーも追う様に詠唱を真似る。

「魔力の潮流の理において、我が生涯を焼き払いたまえ!ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」

 二人同時に詠唱を終えたが、レガーノの手からファイヤーボールは発動されたが、フェルスナーの手から魔法が発動される様子はなかった。それでも諦めることなく、手を前に突き出しながらファイヤーボールと言い続けていたが、魔法は一向に発動されなかった。

「あうう…またダメだった…」

 フェルスナーは下を向いて落ち込んでしまった。アクレドもレガーノも考え込んでしまう。以前から練習しているにも関わらず、こうまで魔法が発動されないとなると、もっと違った原因の可能性もあるからだ。ただ、それが何かは解からない。

「とりあえず、精神を集中させることから始めてみましょう」

 フェルスナーが手を前に出して構え直した。レガーノが手の角度や体の構え方を直しながら、発動に最適な姿勢を作る。アクレドが近くまで的を移動させ、狙いやすいように置き直した。とりあえず焦らないことが一番だ。

「的をしっかりと見ながら、手の先に精神を集中させて下さい」

 フェルスナーは言われたとおりにやってみる。じっと見ながらも意識は手先に集まっている。風の流れもがゆっくりに感じられるほど神経を研ぎ澄まし、額には汗が滲む。

「火の神、ラスレイの力よ…」

 詠唱を始めると、フェルスナーの手先に空気の乱れが起こった。アクレドもレガーノもそれを見逃すことなく、魔法が発動されると期待に胸を膨らませた。

「魔力の潮流の理において、我が生涯を焼き払いたまえ!」

 手先に魔力が集中していくことがハッキリと見えた。詠唱が完了し、今にも魔法が発動しそうな状態になっていた。

「ファイヤーボール!」

 二人はじっと魔法が飛ぶのを期待していた。周りの空気が揺れ、手の先に火の玉が生まれたかと思うと、なぜか飛ぶことはなくそのまま足元にぼとりと落ちてしまった。これではまるで焚き火のようである。

「出たけど…飛ばない…」

 何とも言いがたい結果であった。魔法が発動しても、飛ばないであれば意味がない。これでは折角のファイヤーボールも本当に焚き火である。アクレドが水を持って来て落ちたファイヤーボールを消した。
 それから冷気系の魔法、サンダー系の魔法、風系の魔法も試してみたが、どれもまともに発動させる様子はなかった。念のため、もう一度ファイヤーボールも試してみたが、また発動することはなかった。

「はぁ…はぁ…」

 それから二時間ほど練習を続けたが、一向に上達する様子は見えなかったので、一度練習を打ち切って休憩することにした。デュエイが休んでるベッドの近くまでテーブルを運び、四人で囲うように座ってお茶をする。

「はぁ…あたしは魔法の才能がないのかなぁ…」
「フェルスナー様、そんなこと…」
「いいのよ、デュエイ。まぐれで出たのだって飛ばなかったんだし…」

 デュエイは気を使ってフェルスナーが落ち込まないようにしていたが、本心を言うと相当不安であった。十六歳にもなって使えないというのは別に恥でもなんでもないが、ダイハナン王族の女性は心得なければならないという家訓が、焦らせているのだろう。
 突然、小さな何かがアクレドの目の前を横切り、思わず仰け反って避けてしまった。どうやら虫のようである。アクレドが追い払おうとしたが、それよりも先に誰かが果物ナイフで虫を見事なまでに真っ二つにして倒した。虫の正体は蜂で、体を縦に切り裂かれていた。アクレドは一瞬、レガーノがやったのかと思ったが、ナイフを握っている手が小さくて白い。

「ま、まさか?!」

 アクレドが振り向くと、ナイフを持ったまま驚いた顔をしたフェルスナーがそこに立っていた。レガーノもデュエイも、物凄く驚いた顔をしていた。

「…ウソだろ?小さく、そして素早く飛び回る蜂を、あんなナイフで簡単に…」
「あ…あたしは蜂がいて危ないと思ったから、そこにあった果物ナイフで…でも、こんな簡単に切れちゃうなんて」
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