運命の架け橋 |
TIME GATE HARD FINAL EPISODE |
この辺りは森から相当離れていて火事の影響もなかったため、兵士が調査に来るようなこともなく、静まり返った洞窟を目の前に三人は立ち止まってしまう。洞窟の中は真っ暗で、外から中の様子は伺えない。 「この奥に儀式の泉が…」 フェルスナーは洞窟の様子に心を奪われていた。母も生前はここに来たと思うと不思議な心境になってしまう。そして今、形は代わってしまったが、自分も母と同じことを行おうとしている。 アクレドとレガーノは武器を持つ手に汗が滲む。この洞窟は当然ながら知っていたが、ダイハナンの王女が代々使っていた洞窟というのも聞かされていたので、入るどころか、洞窟に近付くのさえこれが初めてになるのだ。 アクレドがランタンに火をつけ、それを手に持って先頭を歩く。その後ろをフェルスナー。そして最後尾をレガーノが歩く。前後のどちらから襲われても、フェルスナーだけは絶対に守らなければいけないという二人の考えである。 「真っ暗だな…」 アクレドがポツリと言った。 だが、二人のその台詞を否定することはできなかった。アクレドの言うとおり、まだ洞窟に数歩入っただけだというのに、三人の視界は闇に奪われてしまう。入り口から差し込む僅かな光も役に立たなかった。アクレドがランタンで周辺を照らし、時々壁らしいものや地面らしいものを写していた。だが、これだけでは進むのは難しいほど三人の視界の悪さは深刻なのだ。 「クソ…もっと強い明かりが必要なのかな…洞窟のことをもっと詳しく聞いてから来た方が良かったんじゃないか?」 レガーノが戻ろうかと思った時、アクレドが急に立ち止まり、何かに気付いたかのように洞窟の中をゆっくりと見回した。そして何を思ったのか、ランタンの火を消したのである。 「おい、火を消したら何も見えなくなるだろう」 「見えるさ、このまま少し待てばな」 アクレドはよく解からないことを言う。火も明かりもないというのに、この暗闇の中で待っていて何が見えるというのだろう。だが、こうも暗くては身動きが取れないので、二人はアクレドの言うとおりその場に座り込んで時間が過ぎるのを待つことにした。 「そろそろかな…」 三人の視界が少し慣れ、僅かにアクレドの姿が見えた。アクレドは立ち上がって壁や地面の隅っこをじっくりと見つめた。 「キャ!」 突然フェルスナーが声を上げてその場を飛び退いた。近くにいたレガーノは一瞬モンスターかと思ったが、この暗闇の中ではモンスターも襲って来れないはずだ。 「ど、どうしました?」 「そ…そこ…」 フェルスナーが必死で、自分の座っていたところを指しているのが見えた。レガーノがその先を追うと、地面が僅かに光っているのが見えた。いや、地面の何かが光っているのだ。フェルスナーもこれに気付いて驚いたのだろう。 呆気に取られていたが、よく見ると洞窟の色んな所で発光が始まっていた。地面も壁も天井にもそれは存在していて、時間が経つにつれ洞窟内部が見えるようになってきていた。 「な、何が光ってるんだ」 「そう、これがあるならランタンなんて必要ないのさ」 アクレドは得意げに言いながら、光る物体の一つをナイフで切り取って手に取る。レガーノとフェルスナーが間近で見てみると、それはコケの塊だった。コケがなぜか光を発して、辺りが明るくなっている。 「コ、コケが光っているの?」 「そう、これは光ゴケと言ってな、暗い中にいると自ら青い光を発して辺りを明るくするという、何とも不思議なコケなのさ」 「なるほど、洞窟中にこれがあるから、光なんて最初から必要なかったということか」 レガーノは、アクレドはこれに気付いてランタンの火を消したのだと理解した。洞窟内にはたくさんあるので、ランタンとは比べ物にならないほど洞窟の中は明るかった。 「これ、沢山取って来てもランタンの代わりにはならないの?」 フェルスナーは近くのコケを手に取ってじっくりと見つめた。 「残念ながら、これは使えませんよ」 アクレドがそう言うと、アクレドが持っていたコケから光が消え、ただのコケになってしまった。 「これは切り取ってしまうと、光を発せなくなってしまうんです。そのままの状態であるから、そういうことができるものだと思いますよ」 フェルスナーはちょっとだけ残念な顔をする。 「さあ、明かりもあることだし、早く行くとしますか」 一方、アクレドの家で休んでいるデュエイを任されたゼファルは、デュエイの様子を見ながら本を見て何かを調べている。片手にはアクレドが先ほど書いた、黒マントに書かれた紋章を書き写したメモがある。 「その紋章、やっぱり気になるのか」 デュエイが言うと、ゼファルは本を閉じて近くまでやって来た。デュエイに読心術があるわけではないが、紋章が何か解からないというのは表情から読み取れる。アクレドが書いたメモは自分も見てみたが、全く見覚えがない紋章だった。どこかの国が新たに作った部隊の紋章であればいいのでが、デュエイもゼファルもいい予感がしないので調べられずにいられないのだ。 「デュエイ、お前達がこんな目に合っている時に言うのも何だが、もしかしたら、これからとんでもないことが起こるのかもしれないな」 「………」 ゼファルはとんでもないことを言い出したが、あえて反論はしない。 「ダイハナン陥落、ゼストウラの陰謀、ライファの森の大火災、そしてその黒幕の男、そしてマントにあったという謎の紋章。不可解なことがいくつも同時に起きているんだ」 デュエイは認めたくなかったが、ゼファルの言うことが最もなのは解かる。今まで平和だったこの世界を急に乱すかのように大事ばかり起こっている。これが偶然で片付くほどのことではないのも解かっている。もしかすれば、ライファの森の大火災も黒マントの男も、ダイハナン陥落やゼストウラと関係を持っているとも考えられる。 「だけど、考えても始まらないし、一つずつ解決させなければいけない。少なくとも…俺は少なくてもダイハナンの奪還とゼストウラとの決着は果たしたい」 デュエイが根からダイハナンに忠実で、陥落したのにも関わらず責務を果たそうとする点においては感心してしまう。でも、状態が回復次第行ったとしても、自分から敵の本拠地に突っ込むようなもので、危険の冒すだけだとゼファルは思ってしまう。 「そういえば、ゴルトルやアーサーは来てないのか?」 その問いかけを聞いて、デュエイは首を横に振った。 「来てないが、俺がゼストウラ港を離れるまでは二人とも無事だった。二人はダイハナン奪還に協力してくれる者達を集め、俺達が帰ってくれるのを待ってくれているのさ」 「そうか…アーサーらしいといえばアーサーらしいな。待ってくれているのであれば、無茶しないと思うからいいけどな」 ゼファルが窓を開けた。カーテンが風で揺れ、外からは街中の活気が届いてくる。雪国の冷たい空気も、疲れ切ったデュエイの気持ちをリフレッシュしてくれる。責務を果たすことばかり考えていて、これほどゆっくりできたのは久し振りかもしれない。 「あの二人…無事にたどり着けるのかな」 「ん?アクレドとレガーノのことが心配か?」 「初対面って理由もあるが、やっぱり実力も知らない者達に任せると心配になるさ。これで何かあったら俺の責任になる」 「あの二人は、確かにまだ未熟で荒削りだが、素質は相当なものだぜ。そうじゃなきゃ自警団なんてものを任せたりしないさ」 デュエイは自警団というものに感心してしまう。民間で造り上げ、そして兵士や聖騎士団のように大きな援助も受けれないのにも関わらず、街の平和の為に活動しているのだ。アクレドやレガーノも、何かの理由があって自警団として頑張っているのだ。 「まあ、今は傷を治すことに集中してろ。今お前に死なれてしまうと、俺が困るじゃないか。俺とお前はまだ決着がついてないんだからな」 「フ…そうだったな。いつ戦っても実力は互角。お互いに不思議だと思うくらい決着がつくことなんて一度もなかったよな」 まだ、二人のライバル意識が高かった頃を思い出し少しだけ笑ってしまった。 |
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