運命の架け橋
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 運命とは残酷なのかも知れない。

 それを偶然という言葉で終わらせる者もいる。偶然という言葉で終わらせることを愚行という言葉で嘲笑う者もいる。もしそれらが全て始めから運命によって決まっていたことなのであれば、人は愚かな道を歩む以外に道はないのだろうか?切り開いた道も愚かな道なのだろうか?

 もしかすれば、引き起こされる運命によって偶然という言葉は作り出されるのかも知れない。ダイハナンの緑に包まれた国は炎によって紅く染まった。そして、今度は白銀という白を炎が紅くしようとしていた。

 夜も更け城下町全体が寝静まった頃、一人の男が城下町の中を走り抜けていた。昼に降り積もった雪で道が凍っていたので、時々滑りそうになりながらも全速力で走り抜けていた。そしてある家の前で止まると、息を整えようともせずドアを激しくノックした。

「アクレド、大変だ!起きてくれ!」

 窓から光が漏れていないので、明かりを消してもう眠っているに違いない。それでも男はドアのノックを続ける。やがてランプの明かりと思われる光が漏れ、ドアがゆっくり開き中から眠たそうな顔をした男が出てきた。この男がアクレドと呼ばれた男である。

「何だよレガーノ…こんな夜に」

 アクレドは頭を掻き毟ってレガーノの言葉を待つ。

「た、大変なんだよ!あれをみろ!」

 レガーノが指差した方向を見ると、真っ暗な夜空がなぜか紅くなっていた。あまりの状況にアクレドも表情が変わった。

「か、火事か?!」
「そうだよ、あの方向はライファの森だぜ」
「森全体か!」
「夜勤の連中が見つけてくれたんだ」

 アルバート城からライファの森を抜けないとアルバート港には行くことができないので、時間帯を問わず人通りが多いことで知られる森。その森が今燃えているのだ。下手すれば人が中にいるかもしれない。そう思った二人は装備を手に持って森へと走って行った。

 森の手前まで来たところで二人は立ち止まる。森が燃えていると言うより、これは森全体が地獄の炎で包まれていると言った方が正しいくらい炎の勢いは強かった。手前で立ち止まっているのに汗が滲む。しかも雪国だというのに炎は周りの空気を熱くしていた。

「何だって、こんな燃え方をしているんだよ…」
「これじゃあ火事じゃなくて炎に包まれているよな」
「生木は燃えないし…丸太小屋もない森なのに…」

 二人は炎で中に入れなかったので、どこか炎が切れていないか辺りを歩きながら探し始める。そうしていると一人の男が炎の中を突っ切って森から出てきた。

「だ、大丈夫か?」

 二人はその男に駆け寄った。服は少々汚れていたが、怪我もなければ火傷もない様子なので安心する。

「一時はどうなることかと思った…」
「俺らはアルバート自警団の者だけど、あんたは?」
「ああ、俺はアルバート港に入って来た輸入物を馬車で城下町まで運んでいるものだ」
「じゃあ、馬車と荷物は中か…」
「やむを得ない状況だったのでね」

 レガーノはメモを取り出して何かを書き始める。

「他に人はいないのか?」
「そういえば、全身をローブで覆った怪しい二人組みがいたな。俺は馬車だったから追い越したけど、あの二人はまだ中だろうぜ」

 聞き終えたレガーノが、男にメモを渡す。

「これを持って城下町の自警団に行くんだ。今夜はそこで泊まるように」
「あ、おい!」

 二人は男が出てきた箇所から入れることを確信し、呼び止める声も聞かずに森の中へと飛び込んで行った。

「中も凄いな」
「ったく…油でも撒いたのか」

 飛び込んだのはいいが、中までしっかり燃えているのを見て思わず感心してしまう。それはそれで置いておいて、さっきの男が出て来たポイントから入ったのは正解かもしれない。炎が木々を燃やしていたが地面は燃えておらず、まるで炎のトンネルを造っているみたいだった。ここから奥に行けるだろう。

「生きて帰れるかね?」
「自警団って殉職しても特進がないから、生きて帰りたいねえ」

 二人は一瞬だけ笑って森の中を走って行った。
 炎の壁でで行く手をさえぎられたり、倒れた木々で道が塞がれてたりで迂回を続ける二人。熱さもあって二人の体力は予想以上に消耗していた。森を走り抜けていた足も、まだ半分も行ってないのに歩くだけで精一杯の厳しい状態になっていた。この炎だって勢いが強くあと三日は消えないだろう。

「レガーノ…喉乾いたぞ」
「俺だって水が飲みたいさ」

 汗を拭いながら地図を取り出す。自分が入って来たポイントをマークして、通った道を線で書いて忘れないようにする。

「確か、この先が広くなってて池がなかったっけ?」
「飲めるといいんだけど、沸騰していたら泣くぜ」

 足元がフラフラしながらも、二人は池のある広場まで辿り着いた。火の手もほぼ来ておらず、比較的安全だったのでその場で座り込んで休憩を取った。水もキレイで冷たかったので水を飲んで呼吸を整える。

「もうそろそろ半分だと思うけど、ローブの二人組みっていないな」
「火事に気付いて引き返してくれたならいいんだけど」

 会話の途中で突然辺りが暗くなった。二人は炎が消えたのかと思ったが、薄暗くとも森はまだ燃え続けている。まるで黒い霧に包まれたかのようである。

「くっくっく…この炎の中でここまで来れるとはな…」

 二人が上を見上げると、黒いマントの男が宙に浮いていた。二人を見下ろしながらくっくっくと笑っている。アクレドとレガーノも伊達に自警団やっているわけではない。マントの男が人間でないことはすぐに解かった。

「何だお前…」
「私のことなど、どうでもいい。それにしても、アルバートもこうやってダイハナンと同じ運命を辿ろうとしているのに、無駄な努力を続けるのか」
「キサマ!」

 アクレドが高く飛び上がり、男の前まで来たところで剣を勢いよく振り落とした!

「なっ?」

 振り下ろした剣は、なぜか空を切っていて男は傷一つ負っていない。アクレドの剣は男をすり抜けて空気だけを切っていた。

「無粋な技だ…もっと腕を磨け」

 男がアクレドの後ろに回り込み、背中に手を当てたかと思うと、強い衝撃波を叩き込まれてそのまま池に落ちてしまった!

「サンダー!」

 攻撃の手を休めないようレガーノはサンダーで男の真上から雷を落としたが、雷は男を通り抜けて地面に落ちた!

「ど、どうなってるんだ?」

 アクレドも池から出て来て男を見上げる。剣も魔法も当たらない…まるで男には実体がないようにも思える。
 アクレドは手を休めず剣を真上に向ける形で構えると、真空の渦が身の回りを包みだした。真空で包まれたまま剣を突き立てる形で男に飛び込んでいく!

「空流剣!!」

 必殺技も男をすり抜けた。アクレドは空中で木を蹴って、その勢いを生かしてもう一度必殺技で男に向かって行った!だがそれも空を切るだけでアクレドは地面に着地した。だかそれと入れ替わりでレガーノがジャンプして男の真正面から魔法を撃つ体勢になっていた!

「ファイヤー!」

 だがそれも男を通り抜けてレガーノは地面に着地した。

「フッフッフ…中々頑張るではないか。では、今度は私の番だな」

 男がゆっくり手を上げると、無数の魔法の矢が二人に向かって落ちてきた!二人は思わず防御体勢に移ったが、魔法の矢は二人に当たらず、攻撃の激しさが地面に現われていた。

「くっ…」
「わ…わざと外したな…」

 二人は顔を歪ませながらも男を視線から外さない。

「簡単に終わらせるのもつまらんだろう」

 男が指を鳴らすと、あの森を包んでいた業火が一瞬にして消えた。その出来事に二人は思わず辺りを見回した。炎は完全に消えていた。そこまで解かったところで二人は男の方に向き直したが、すでにそこに男の姿はなかった。

「せいぜい頑張ってくれよ」

 その声が響くと、辺りは静寂に包まれた。
 きっとこの火事はあの男が関係していることだろう。そして圧倒的な実力の差を見せ付けられ、二人は少しの間その場に立ちすくんだ。もしも相手がその気になれば、自分達は間違いなく殺されるからだ。

「レガーノ…帰ろうぜ」

 アクレドはレガーノの腕を引っ張って帰ろうとしたが、レガーノは何かに気付いたかのように森の奥を見つめる。

「人の声が聞こえるぞ」

 アクレドも言われて耳を澄ませると、確かにかすかに人の声が聞こえた。二人は入り口で会った男が言っていた“ローブを着た二人組み”に間違いないと思い、声のする方に走っていった。

 二人が着く頃には声は聞こえなくなっていたが、二人は発見された。背の高く、男と思われる人物がその場に倒れていて、もう一人の方がその場で泣き崩れていた。

「お前達が森の中にいたという二人組みか」

 アクレドが声をかけると、泣き崩れていた方がアクレドの方を向いてローブのフードを取った。顔からしてそれが少女であることが解かった。背が低かったのは、ただ単に背が低い人というわけではなく、少女だったからなのか。

「お願いです、この人を助けて下さい」

 涙混じりながらも、それが少女の精一杯の声だった。
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