光の彼方
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 間もなく夜が明けるくらいの頃に三人を乗せた馬車はゼストウラ港に着いた。まだ港にゼストウラの手は及んでないはずなので、安全な内にアルバートに逃げたい。一方フェルスナーは初めて見る港町に驚いていた。

「本物の船を見るなんて初めてだわ」

 本でしか船を見たことが無かったので、雄大さを物語る船の大きさと言うものはフェルスナーの予想を遥かに上回っていた。
 いつもなら輸入品や鮮魚を求める買い物客で賑わう港町なのだが、まだ夜が明けてないので人通りは全く見られない。それにゼストウラがああなってしまった以上、今後のこの町にも緊張が走るだろう。デュエイはそんなことも考えていたが、これ以上フェルスナーに余計な心配をかけることはできないので、悟られないように気をつける。
 デュエイは船着場へ行こうとしていたが、突然立ち止まり宿屋へと入っていく。フェルスナーもゴルトルも何が起こったのか解からないまま続いて入る。

「すまないが、夜明けまで休ませてくれないか?」
「休憩でございますね?宿泊の半額の料金をいただきますが…」
「それで構わない」

 それだけ言うと、三人は部屋へと案内された。荷物を降ろし、ローブを脱いだところで三人は開放感に満ちる。

「どうしたのじゃ?傷は治したが、体力は回復してないのか?」
「まさか、船を確保するまで三人で外を出歩くのはマズイと思っただけだ。船の確保は俺一人でやった方がいいだろう」

 フェルスナーはベッドに座って話を聞いているだけだ。いつもならまだ寝ている時間なので、まだまだ眠いといった感じである。とりあえず、デュエイはフェルスナーのことはゴルトルに任せて船を確保するため再び外に出た。
 外に出たところで強い風が吹いたので、深くローブを着込んで船着場へと足を進めた。船と言っても色々ある、漁業のための漁船に荷物の運搬を行う貨物船。そして人を乗せるための客船に兵士のための軍船まである。まだ夜が明けていないと言うのに、すでに出発した漁船や貨物船が見られた。デュエイは迷うことなく乗船券の販売所へ入って行く。

「いらっしゃいませ」
「今日はアルバート行きの船は出るのか?」
「はい、午前に二隻、午後に二隻と出ます」
「一番早く出港するのに乗りたいのたが」
「え?確かに乗ることはできますが、出港まであと一時間しかありませんよ?」
「それでいい、三人分の乗船券を頼む」

 デュエイはお金を払い三人分の乗船券を受け取ると、早足で宿屋へと戻っていった。

「フェルスナー様、ゴルトル、すぐに出発だ」

 宿屋に戻るや否や、二人でお茶を楽しんでいるのも気に止めず、すぐに出発するという意向を見せるデュエイだった。だがそれは逆に、すぐに出港する船を確保できたということが伝わったので、フェルスナーもゴルトルも手短に準備を済ませて宿屋を後にした。

 三人を待っていたのは大きめの客船だった。直接アルバートまで行くということだったので出港すれば安全を確保したも同然である。デュエイが三人分の乗船手続きをするのを尻目にフェルスナーは間近で見る船に感動していた。

「この船なら二日後の朝にアルバートに着くと思いますぞ」
「………」

 突然デュエイが辺りを見回した。乗船手続きが終わったところでゴルトルの近くまで来る。二人は強い殺気を感じていたのだ。ゼストウラの刺客かレイザの手下だろう。周りに人は見当たらないが、感じる殺気は近くにいることを教える。デュエイは剣に手を添えながらゆっくりと辺りを歩き始める。ゴルトルはフェルスナーから離れないように魔法を唱えながら待ち構えていた。
 デュエイは近くにあった箱に剣を突き刺した!

「ぐあ!」

 剣をゆっくり引き抜くと、箱の陰から人が倒れながら姿を見せた。それは間違いなくレイザの手下だった。だが、それと同時に別のところに隠れていた三人が飛び出した!

「しまった!」

 三人の狙いはフェルスナーだ。デュエイは走り出したが、反応が一瞬遅れたために間に合わないかもしれない!ゴルトルに三人の同時相手は危険だ!

「私にお任せを!」

 突然デュエイの視界の横から物凄い衝撃波が飛び出し、レイザの手下の三人を一気に吹き飛ばした!デュエイが振り向くと、黒いローブを着た男が剣を構えていた。デュエイはその剣の構え方に見覚えがあった。

「ま、まさか…」
「みなさん、ご無事でしたか!」

 男がローブを脱ぐと、それはダイハナン兵の技術指導官を務めているアーサーだった。デュエイもゴルトルもアーサーを見なかったので、二人ともあの夜に死んでしまったとばっかり思っていたのだ。

「アーサー、お前も無事だったのか」
「デュエイさん…先に城を抜けたりしてすいません」
「いや、俺もゴルトルも死んだとばかり思っていたから構わないんだが、とにかく助かったよ」

 まだ出港まで時間があったので、デュエイは色々と話を聞くことにした。アーサーはデュエイと一緒にフェルスナーを守りながらゼストウラに行こうと思ったが、あの夜、レイザはデュエイがフェルスナーを連れてゼストウラ港からアルバートに行くことも考えていたので、先に手下を数人送ったことを知ったので、デュエイ達に付いて行かず、先に港町に行ってデュエイ達を待つことにしたということだった。デュエイもゼストウラに行ったことや、そこで何が起こったのか、レイザとゼストウラ王が手を組んでいたことを話した。

「そうでしたか…レイザが起こしたことにしては妙だと思ってましたよ。誰かが後ろにいるとは思っていたんですけどね」
「とりあえず、俺達はアルバートまで行って、フェルスナー様の保護とダイハナン奪還の協力を求めようと思うんだ、できればお前の力も貸してほしい」

 デュエイは手を差し伸べたが、アーサーはその手を握ることができなかった。握りたい気持ちを抑え体が震える。

「アーサー?」
「私は…ダイハナン奪還のため、ここに残ります。だから、一緒に行くことはできません。散り散りになってしまった反レイザ派の兵士を集め、皆さんの帰りを待ちます」
「アーサー…」
「ですから、フェルスナー様のことは任せましたよ」

 アーサーがそういうと、ゴルトルがアーサーの横に立った。

「なら、わしも一緒に行こう。わしが行けば少しは戦力になるじゃろう」
「ゴルトルさん…」
「デュエイ、フェルスナー様のことは頼みますぞ」
「ゴルトルまで残るのか…」

 フェルスナーは別れを惜しむ顔をしながら、ゴルトルに指輪を渡した。それはフェルスナーがいつも着けていた光の指輪である。

「私はデュエイと必ずダイハナンに帰ってきます。だから…それまでその指輪を預かってて」

 ゴルトルは指輪を強く握り締め、アーサーと共に跪いた。

「かしこまりました、ゴルトルとアーサー、命に代えてもこの指輪を守り続けます」

 そして出港の時間になったということで、デュエイとフェルスナーは船に乗り込んだ。フェルスナーは別れを惜しんで甲板まで登ったが、すでにゴルトルとアーサーの姿は見えなかった。

「いつまでも見送っていれば、悲しみが増します。ゴルトルとアーサーはまた会えると信じたからこそ行ったんでしょう」
「これで、ダイハナンとはしばらくお別れね」
「アルバートに着くのは二日後です。さあ、ゆっくりと休みましょう」

 二人を乗せた船は、アルバートに向けて出発した。ここからが全ての幕開けとなるのであった。
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