光の彼方 |
TIME GATE HARD FINAL EPISODE |
広大さを感じさせる広さ。赤一色に統一された絨毯。通路の両端に立ち並ぶ兵士。ダイハナンでも謁見の間は兵士が立ち並んでいたが、ここまでの緊張感はない。フェルスナーは口に出さずとも心の中でそう思った。緊張感の違いは、自分に付いて来てくれたこの二人も感じていることに違いない。 フェルスナーを真ん中に、そしてその両隣をデュエイとゴルトルで歩く。国王の数歩手前で立ち止まり、デュエイとゴルトルは跪く。フェルスナーは一瞬遅れたが、いつも作法で習っていた挨拶方法で挨拶をした。 「お久しぶりです、ゼストウラ王。ダイハナンより、フェルスナー王女、ゴルトル、そしてこの兵士長デュエイ、報告したいことが御座いまして、お目通し願いました」 「デュエイ、ゴルトル、長い旅路を得てよく訪ねてくれた」 「お初目に掛かります、ゼストウラ王」 「ふむ、そなたがフェルスナー王女か。赤ん坊だった時に会って以来だからな。私のことを知らないのも仕方ない」 「ゼストウラ王、事を急いでおるのですじゃ。用件を申しても良いか?」 「相変わらずだなゴルトル、まあ、昔からそういうやつだったがな」 ゼストウラ王は、自分の側にいた兵士を退かせた。 「用件はダイハナンが大変なことになっていると聞いている。そして二人が王女を連れてここまで訪ねる…一体どうしたというのだ」 フェルスナーが答えようとしたが、デュエイが割って先に話す。 「ゼストウラ王、質問に答える前に、私達の質問に答えて欲しい。なぜ、昨日といい今朝の朝食時といい、フェルスナー様との接触を避けたのだ?」 「私が先に聞いているのだ、答えるのだ」 言い包められ、デュエイは不満で口元を歪ませる。 「ダイハナンは一昨日の夜、ロイヤルナイトのレイザが軍を結成し、反乱を起こし、陥落してしまいました」 「…ダイハナン王は?」 「亡くなられ…ました」 「そうか…亡くなってしまったのか…。大よそのことは察した。ゼストウラの力を借り、フェルスナー様の保護とダイハナンの奪還を考えているのか」 「そうですじゃ…」 今度は自分が質問をする番だ。デュエイはそう思い立ち上がる。いつまでも跪く必要もない。 「ゼストウラ王、質問に答えていただきたい。緊急事態だをいうことを知ることができなかったのは構わない。なのに、なぜフェルスナー様が来られたというのに、昨日の内に会わなかった。昨日は無理だとしても、今朝の朝食の席で同席させても良かったはず」 デュエイの勢いに乗って、ゴルトルも立ち上がる。 「それに、あんな客室でフェルスナー様を休ませるとは何事じゃ!しかも、朝食だって使用人が食べてるようなものだった。ワシ等はともかく、フェルスナー様に失礼ではないか」 「ゴ、ゴルトル…私はいいのよ」 突然訪ねておいて、拒否されなかっただけでもありがたく思いたい。フェルスナーの考えはゴルトルとは正反対だったようだ。デュエイは自分の意見に従ってくれるから良いが、ゴルトルは教育係という立場なので、自分の考えと食い違ってしまうことは少なくない。 だが、今回は例にない状況な上、あまりにもゼストウラ王の態度に腹を立てたのか、デュエイすら自ら立ち上がっている。フェルスナーは、自分の考え方に自信を無くしてしまう。 「突然訪れておいて、世話になっておいてその言い方は困るな。客室を用意しただけでも感謝してもらわないと…」 「ゼストウラ王…あ、あなたという人は…!」 開き直っている王の態度に、デュエイは今にも斬りかかりそうな怒りを秘めている。刺激すればいつ斬りかかってもおかしくない。 「デュエイ、その顔は不満でもあるのか?姉妹国とはいえ、お前達はゼストウラの者ではないのだ。陥落したと言われても、ゼストウラの力を貸すことはできん」 「ダイハナンを見捨てると言うのか…!一体どういうつもりだ!」 デュエイは腰に帯剣させている剣の柄に右手を添える。 少し間があってから、謁見の間にゼストウラ王の笑う声が響いてきた。 「な…何がおかしい!」 「くっくっく…」 デュエイとゴルトルが辺りを見回すと、退かせていたはずの兵士が全員戻って来ていた。その兵士全員が武器を手に持ち、殺気に満ちているのが解かる。 「ど、どういうつもりだ!」 「こういうつもりですよ、デュエイ兵士長」 「城で殺されていればいいものを、ここまで来るとはな…」 「そ…そんな…まさか…」 フェルスナーはショックでよろめいた。倒れないようにゴルトルが支える。 全員が一斉に理解したのだ。ダイハナンの反乱は、ゼストウラ王によって計画されたものだったということを。そしてレイザは、最初からゼストウラ王と手を組んでいたのだ。そして時期を見計らって反乱を起こしたのだ。 デュエイは剣を抜いた。 「国王!お主…レイザと手を組んでいたのか!」 ゴルトルは怒りのあまり、声を震わせる。 「ああ、その通りだ。城でお前達も殺す予定だったのだが、少し甘く見ていたようだな」 「なぜ…なぜこんな真似をしたのじゃ!」 「なぜ?それはダイハナン王とお前達が邪魔だったからだよ」 「邪魔?」 「もちろん、あなたもですよ。フェルスナー王女」 フェルスナーは、悪意に満ちたゼストウラ王の目を見て恐怖に震える。父も使用人も城下町の住民も国王に殺されたのだ。 デュエイはゴルトルにフェルスナーのことを任せて前に立つ。 「キサマ…ダイハナンを乗っ取るつもりか!」 「ああ、そうとも。ダイハナンの関係者が全員消えれば、私のものになる。レイザは、ダイハナンの指導権を握るコトを条件に、話に乗ってくれたのだ。お前では乗らないと思ったからな」 デュエイの絶対服従さは板に付いているため、ゼストウラ王も知っていたのだろう。 「レイザもこっちに向かっているはずだ。アルバートに逃げられたらどうしようかと思ったが、ここに来てくれて好都合だ」 「キ…キサマら…」 「その剣で私を斬るのか?斬れないだろう。斬りかかった瞬間、死ぬのはお前だ。死にたければ斬るがいい。だが、フェルスナーを守れる者がいなくなるぞ」 見破られている!デュエイの脳裏にその言葉が過ぎる。このままゼストウラ王を剣で斬ることは可能だ。しかし、そんなことをしてしまえば兵士全員が一斉にフェスルナーとゴルトルを襲うことになる。そして、次に自分の番が来る。状況を悪化させるだけだ。 「くっ…うっ…」 下手な行動が取れず、声を漏らすしかできない。 「さて、その物騒な剣も預かろうか。斬りかかられたのでは、たまらないのでな」 「キサマ…どこまで腐ってやがる」 「何を言うのかね、自分の安全を確実にするため仕方のないことだろう。さあ、その剣をこちらに渡していただこうか」 「………」 「早く渡さないと、今すぐフェスルナーを殺してもいいのだぞ」 「デュ…デュエイ」 デュエイはここで、一か八かの賭けを思いついた。今のところ何とも言えないが、襲われないと過信しているゼストウラ王の今の状況を突くしかない。 デュエイはそれに賭ける為、少しだけ歩を進めた。 |
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