光の彼方
TIME GATE   HARD FINAL EPISODE


 あの湿気の多かった洞窟を抜け、そこから更に続いた長い旅路を経てデュエイとフェルスナーは、大陸の北側にあるゼストウラ城下町に着いた。

 まだ太陽は高いところにあった。この時間帯のゼストウラもダイハナンに負けないくらい活気に満ちていて、まるでダイハナンが陥落したのが嘘のように思ってしまうほどだった。商売に精を出す店の主人。買い物で色々迷っている客。通り行く人に声をかける店員。フェルスナーは、時々城を抜け出して城下町で遊んでいたが、この光景を見てもうそれも叶わないと思うと悲しい気持ちになる。
 デュエイは歩きながら考えた。城下町の人にフェルスナーの顔を見られるのは良くないことなのではないだろうか…?おそらく気付かれることはないと思うが、万が一ということもある。デュエイはフード付きのローブを取り出し、それをフェルスナーに着せてから再び城下町を歩き出す。

 さすがに兵士長ということがあるのだろうか、ゼストウラに何度も来ているかのように迷うことなく城下町の中を進む。

「私はそうでもありませんが、ゴルトルはゼストウラでも顔が広い存在ですから、もう今回の件について話はしてくれていると思います」
「そうね…それで、デュエイはどうするの?」
「解かりません…ですが、私はここの兵力を借りてでもダイハナンを取り戻すつもりです!そしてその時は必ず来ます」

 デュエイは厳しい表情で空を見つめた。

 二人は城下町を通り抜け、ゼストウラの城門前まで辿り着いた。フェルスナーは、その城門の凄さに驚いてしまった。ダイハナンは城下町の通路を通り抜ければそのまま城の中へと通じているため、城門というものが無い。フェルスナーにとっては城門というものを初めて見ることになる。

「大きい門ね…」
「そういえば、ご存知ありませんでしたね。これは城門というのです。悔しいことにダイハナンには城門がありませんけど」
「作らなかったの?」
「ダイハナンを起こした国王なんですけど…元はただの資産家だったということもあって…民間人だったその癖と言うか民間人の考え方というか、城下町と城を城門で隔てたくないということで城門を作らなかったと言われてます」
「ふーん…」

「そこの二人、止まれ」

 二人が城門を通り過ぎたところで警備兵に呼び止められた。

「ゼストウラ城に何用だ?」

 警備兵が厳しい表情で二人を問い詰めたが、デュエイはそれ以上に厳しい表情で警備兵を睨み返した。まるで全てのものを凍らせるように冷たく光る目は、警備兵をも退かせてしまう。

「私はダイハナン兵士長のデュエイで、こちらにおられるのはフェルスナー王女であるぞ!ゴルトルから話は聞いているだろ!」
「おお、そうでしたか。ゴルトル様から話は聞いております。ささ、私が案内いたします」

 警備兵に案内され、二人は城の中へを進んで行った。



 二人が来ることは国王にも知られていたが、非常事態とはいえ、すぐに会うことはできないということもあって、今は休んでもらおうということで二人は客室へ通された。

「おお、来たか…待っていたぞ」
「ゴルトル…あなたも無事だったのね」

 中には、先に着いて話をしてくれていたゴルトルが待っていた。デュエイはゴルトルと二人で話がしたいということで、長旅で疲れていたフェルスナーをベットで休ませてから、二人でテーブル席に座った。

「ゴルトル、ご苦労だったな。先に行っててもらい、話をしておいて貰うという考え方は正しかったようだな」
「デュエイも、あの状況の中でのフェルスナー様の警護、ご苦労だったな。他の兵士では無理だったじゃろう」

 二人の間に親密な空気が流れ、表情が和らいだ。

「それで、ゴルトルもまだ…国王には会ってないのか?」
「うむ、そうなのじゃ。ワシも今朝ここに着いたばかりなのでな」
「そうか…俺は、もう会ってくれているとばかり思ってたんだけど…」

 非常事態なのだから、自分達より先に着いているゴルトルは謁見しているだろうと思っていたデュエイだったが、まだだと聞いて動揺が走る。だが、フェルスナーの手前で焦るわけにもいかないので、冷静さを保つ。

「明日には会ってくれるということらしい」
「そうか。すぐにでも、ダイハナン奪還の体勢を整えたかったのだがな…」
「すぐにでも奪還か…デュエイらしいものじゃな。奪還と言うことは、今回の黒幕が誰なのか解かっておるということか」
「紛れもなくレイザだ。あいつの裏切りが騒動の原因なんだ」
「レ、レイザじゃと?自分が仕える国で反乱を起こしおって…自分達で国を乗っ取ろうとでも思っているのか?」
「これは黙っていたことなのだが、レイザは前々から信用できん奴だったのだ。妙に部下に支持されていると思っていたが、支持していた兵士は全員、あの反乱に加わっていた。最初から仕組まれていたことだ」

 こうやって話しているだけでもデュエイの胸の中は怒りで満ちてしまい、その怒りで表情を歪ませる。それにデュエイから見れば、レイザは自分の部下に当たるわけであり、自分にも多少の責任があるという罪悪感も、感じられずにいられないということだ。

「何とかせんとな…このまま放っておけば、レイザのことだ。すぐにでも自分の国を築きあげてしまうだろう」
「ゴルトル…フェルスナー様は健在なのだ。健在である以上復興は可能なんだ。ダイハナンは俺が死んででも取り戻すさ」
「デュエイ…お主…」
「ダメよ!」

 話を聞いていたのか、フェルスナーが飛び跳ねるように起きた。

「フェ…フェルスナー様…」
「これこれ、無理なさらずにお休み下さい」

 ゴルトルの注意も聞かず、フェルスナーはデュエイに抱きついた。

「死ぬなんて言わないで!貴方までいなくなったら、私は何を頼りに生きればいいの?城を失った今、貴方まで失いたくない!」
「でも、私はゴルトルとは違います。私の命は貴方のためにある命です。貴方のために死ねるのであれば、それは本望とも言えます」
「何で…どうしてなの?レイザだけじゃなく、貴方まで私から全てを奪おうとするの?もうこれ以上やめて!」

 あまりにも取り乱すフェルスナーだったので、デュエイはとりあえず「行きませんよ」とだけ言ってからゴルトルと二人で落ち着かせ眠らせた。昨日からデュエイは休んでいないので、コトあるごとに疲れが出てしまう。

「ほっほっほ。デュエイ、お主はよっぽどフェルスナー様に好かれておるのじゃな。若いということは美しきかな」
「ゴルトル…変なこと言わないでくれ。俺はただの従者だぞ。好かれるなんて…そんなことあるわけないだろ」
「身分違いの恋だから否定しておるのか…?お主がどう思うかは勝手じゃが、フェルスナー様はお主に好感を持っておられる。恋というヤツじゃな」
「あのなあ…」
「フェルスナー様の教育係をしていたワシを舐めるでない。フェルスナー様の考えは、全てお見通しなのじゃよ」
「俺は疲れていてジジイの戯言に付き合ってる暇はないんだ。勝手に言ってくれ」

 ゴルトルにからかわれたお陰で、疲労がピークに達したデュエイは、テーブルに体を任せて仮眠することにした。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送