光の彼方 |
TIME GATE HARD FINAL EPISODE |
水の滴る音が地下洞窟では気味悪く響く。湿気が多いのだろうか、地面も壁も天井も関係なく至る所にコケも多く生えていた。そんな洞窟をランタンの光を頼りに1人の男と1人の少女が歩いていた。男の方はロイヤルナイトの装備に身を包み、少女の方は貴族のような美しいドレスを着ていた。二人とも、コケで滑らないように足元に注意しながら歩く。 男は表情を変えることなく、ランタンを手に持って、洞窟の奥をじっと見ながら進んでいる。それに続くかのように少女も歩いている。 「………」 「お城はどうなっちゃうのかな…」 少女は立ち止まり、心配そうな顔をしながら天井を見つめていた。男はそれを見て、少し話がしたくなったので休憩することにした。 「まだ先は長いです。少し休憩しましょう」 大きな荷物入れの中から真っ白な大きな布を取り出すと、それをそのまま地面に敷いて、その上に少女を座らせる。 「フェルスナー様。確かにレイザの反逆により、ダイハナン王国は陥落しました」 「もうダイハナンは終わったわ…」 「そんなことありませんよ。貴方様がいる限り、必ず復興します。それまでこのデュエイ、命に代えても貴方をお守りいたします」 デュエイの言葉を聞いて、フェルスナーの表情は少し緩んだ。物心付いた時から常に自分の側に居てくれたデュエイだけが、フェルスナーの心を許せる相手だからだ。ダイハナンの兵士長という立場でありながらもフェルスナーを常に守っていて、この騒動が起こった時も、すぐにフェルスナーをこの地下洞窟に避難させたのだ。 「ありがとう…貴方が居なかったら、私はどうなっていたか…」 殺されていたかも知れない。その言葉を飲み込み、体を振るわせる。 「いえ、貴方を守るのが私の使命です。気になさらないで下さい」 「でも、城も何も無いのに…何も得することなんて無いのに、それでも貴方は私を護るためについて来てくれた…」 「損得の関係ではありませんよ。この私の命は、フェルスナー様のためにあるんです。バカと言われても構いません、この命を存分に使わせて下さい」 少し重い会話になっていたので、デュエイは話題を変えることにした。城が陥落したことや、国王である父が殺された事実は、まだ16歳の少女であるフェルスナーには耐え切れない事実だと言うことを配慮してのことだ。 「フェルスナー様はご存じなかったでしょうけど、この洞窟は、何代か前の兵士長であるローウィリー様が万が一の時に備えて作った洞窟なんですよ」 「ふーん…でも、いくら地下洞窟とは言え、湿気が多すぎない?」 水の滴る音が絶えないことや空気が湿っていること、そしてあまりにもコケが多いことをフェルスナーは気にしている。 「正確にはわかりませんけど、私達は今、国境の山の真下辺りにいると思います。確か山の下が水脈になっていて、その関係ではないでしょうか」 「へえ…じゃあこの洞窟は、ゼストウラまで通じてるの?」 「いえ、このまま進めば、国境を少し抜けた場所に出ます。そこからは徒歩ですね」 「それで、ゼストウラに避難して・・・それからどうするの?」 「とりあえず…一度そこでフェルスナー様を保護して貰いましょう。我らダイハナンとゼストウラは元々は1つだったのです。そこなら安心できますし、いくらレイザでも簡単には手出しできないでしょう」 デュエイの考えでは、本当は現在のアルバート王国まで逃げたかったのだが、すでにダイハナンの港にはレイザの手下が待機していると考え、ゼストウラを経由してアルバートまで行こうと思っている。その為には一度ゼストウラを訪ねなければならない上、何よりもこの事態を伝えることも必要だと考えたので、デュエイはゼストウラへ行くことにした。 突然デュエイが洞窟の奥をじっと見つめた。 「どうかしたの?」 「フェルスナー様…私の後ろに下がっていて下さい」 デュエイはランタンを足元に置き、剣を構えた。フェルスナーは何が起こったのかと思ったのと同時に暗闇から何かが飛び出して来た。だが、それとほぼ同時にデュエイもそれに飛び掛って、持っていた剣でそれを断ち切った。 ランタンの明かりに照らされて、ようやくそれがリザードマンであることがわかった。それも既にデュエイの剣太刀で上半身と下半身が分かれてしまった後である。それでもモンスターの生命力はタフであったため、まだ絶命していないリザードマンに対して、デュエイは魔法で火を放ってリザードマンを焼いた。デュエイは剣をしまい、ランタンを再び手に取った。 「ふう…モンスターか」 「………」 フェルスナーはあまりの一瞬の出来事に、ポカーンという表情をしていた。 「フェルスナー様?」 デュエイに呼ばれで、フェルスナーは我に返った。 「あ、ゴメンなさい。その、やっぱりデュエイは強いんだなーって…」 デュエイが強いの知らないわけではなかったが、改めてこう見ると、その強さが本物だということが解かる。 「お褒めに預かり、光栄です」 「でも、こういう時だからこそ、自分も戦えたらって思っちゃうわね」 「ダイハナンに生まれた王子は、幼い内から私などが剣術を教えたりもするんですけど、フェルスナー様は王女ですから、魔法の心得ていただくのが王族のならわしみたいですね」 「…うー、私はそれを気にしているのよ」 フェルスナーも魔法を心得ようと日々努力していたが、中々上達しないという厳しい結果に追われていた。 と、会話の中に出てきた「魔法」という言葉を聞いて、フェルスナーは何かを思い出したかのようにハッっとした。 「そういえば、ゴルトルは…?」 ゴルトルと言うのは、こちらもフェルスナーに仕える城の関係者で、フェルスナーの教育係りを任されている初老の魔法使いである。現ダイハナン王が子供の頃から教育係りとして城に仕えていたこともあり、城の中では一番顔が広い存在でもあった。 フェルスナーは、城の騒動でデュエイはすぐに駆けつけてくれたが、ゴルトルを一度も見ていないことを思い出したのである。 「あの騒動の中、全く見てないわ。まさか逃げたんじゃ…」 そんな不安を否定するように、デュエイは首を横に振った。 「逃げたのではありませんよ。実はゴルトルもこの洞窟を経由して、先にゼストウラへ行ってもらっっています」 「え?」 「先にゼストウラへ行ってもらって、事情の説明をお願いしてあるんです。そうすれば手間も省けるでしょう」 「なるほどね」 「さあ、出口はもうすぐです。追っ手が来ない内に急ぎましょう」 休憩を終え、デュエイはフェルスナーの手を引っ張って、早足で洞窟の闇へと消えて行った。 |
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